Publicly Offered Research
Grant-in-Aid for Scientific Research on Innovative Areas (Research in a proposed research area)
南大洋の約4万年前から現在までの海底堆積物の記録から、最終氷期から完新世に向けて還元的から酸化的な環境へと変化したことが知られている。これは氷期の大気CO2 濃度の低下と関係がある可能性が高いが、詳細は解明されていない。本研究では、海洋の酸化還元状態や栄養塩状態の変動を主に鉄と硫黄とリンの化学種別存在量と安定同位体組成および遷移金属元素の含有量から明らかにすることを、研究の目的とする。そして、(A) 最終氷期最寒期での南極極前線帯や冬季海氷縁等の位置や変動様式を復元し、(B) 海洋のベンチレーションの程度(海氷の被覆海域の変化に影響)の変化を復元することを目標に定める。
研究調査船白鳳丸の2019年航海で、南大洋のデルカノライズ付近で採取した掘削試料に関して、社会情勢および学内の制限により共同研究先での各種測定を断念せざるをえなかったため、研究代表者の所属先で主にリンと鉄のスペシエーション分析を行った。リン含有種はPabs, PFe, Pauth, Pdet, Porgの5形態に分け、吸光光度計によるモリブデン-ブルー法やICP-AESにて定量を行った。鉄含有種もFepy, Femag, Fecarb, Feox, FeHCl, FeDの5形態に分け、吸光光度計によるフェロジン法にて定量を行った。以上の結果、(1)リンと微量元素の地球化学から探る南大洋の最終氷期の初期生物生産の変動史;(2)南大洋航海KH19-1で得られた更新世前期の堆積物コアのリンのスペシエーション分析;(3)南大洋航海KH19-1で得られた更新世の堆積物コアの鉄のスペシエーション分析;(4)南大洋航海KH19-1で得られた更新世後期の堆積物コアのリンのスペシエーション分析、の4項目としてまとめた。以上より、コア試料の分析深度範囲が示す期間においては、恐らく風成塵由来の鉄がアフリカ南部の乾燥地域より南大洋に供給されたために初期生産が増大し、生産された有機物の分解により海中の溶存酸素が消費され、水塊もしくは堆積物が嫌気的となり、堆積物の明暗の色調差として表れ、各化学指標を形成していった、と考えられる。未処理の試料も多く残存するため、同様の研究を継続する。その後、英文論文として発表する。断念した分析項目である炭素と窒素の形態別存在量と同位体分析は、可能となり次第、鋭意実施していく。硫黄含有種(Spy, SAVS, Sorg, SSO4)の化学分離も行い、重量法で定量し、同位体分析も行う。
令和3年度が最終年度であるため、記入しない。