Publicly Offered Research
Grant-in-Aid for Scientific Research on Innovative Areas (Research in a proposed research area)
本研究の目的は、これまで「何もない空間」という誤った仮定から考古学研究の対象となることがほとんどなかった広場という公共空間に焦点をあて、そこでの人間行動の多様性とその変遷を詳細に研究することにある。研究対象は、今から約千年前にペルー北海岸で栄えたシカン政体最大の祭祀センター・シカン遺跡の中心に位置する大広場である。この広場を発掘することによって、その儀礼的景観を読み解く。
2022年度は、前年度に予定していたが新型コロナウィルス感染症の世界的な流行のため延期していた、シカン遺跡中心部・大広場での調査を実施した。調査目的の一つは、2019年発掘シーズンの最終週に大広場の中央で発見された墓らしきものの正体を明らかにすることであった。発掘の結果、この墓には織物製作に関わる比較的地位の高い人物が殉死者を伴って埋葬されていたことがわかった。支配者集団が所有する埋葬基壇に囲まれた広場の中心という墓の配置や、切り口近くに置かれた豪奢な奉納物などから、一時は王墓である可能性も浮かび上がった。しかし、被葬者は丁重に扱われてはいるものの、伸展位で頭部を南に向けて埋葬されていることから、モチェの文化的アイデンティティをもった人物であり、王ではないことが明らかになった。比較的簡素な墓の構造や副葬品を見ても、やはり王墓とは考えにくい。これによって王の存在が否定されたわけではないが、「当時の社会はエリート家系の連合体によって統治されていた」とするこれまでの解釈モデルを更新するには至らなかった。調査のもう一つの目的は、ハンディLiDARシステムを用いてシカン遺跡全体を三次元化することであった。遺跡は植生の濃いポマ森林国立歴史保護区の中にあるが、LiDARを使用することによって、未登録の建造物なども含めて微地形を復元し、遺跡内空間構造の詳細を明らかにできた。たとえば、中心部の埋葬・祭祀基壇群を取り囲むように広がる空間は、これまで「平らで何もない」と思われてきたが、実際には広範囲にわたって10cmに満たない低い壁によって詳細に区画されていた。これまで基壇群からなる祭祀センターと解釈されてきたシカン遺跡であるが、全体としては都市のような様相を見せていたことがわかった。調査延期による遅延はあったものの、今後の研究に繋がる幾つもの重要な発見が得られた点で、大変有意義な調査となった。
令和3年度が最終年度であるため、記入しない。
All 2022 2021 2020 Other
All Int'l Joint Research (1 results) Journal Article (1 results) (of which Int'l Joint Research: 1 results, Peer Reviewed: 1 results) Presentation (14 results) (of which Int'l Joint Research: 8 results, Invited: 9 results) Book (3 results) Funded Workshop (1 results)
古代アメリカ
Volume: 第24号 Pages: 51-75
40022759215