Publicly Offered Research
Grant-in-Aid for Scientific Research on Innovative Areas (Research in a proposed research area)
1919年に超伝導現象が発見されてから、より高い超伝導転移温度(Tc)をもつ物質の発見・開発を目指した研究が長年行われています。2015年に硫化水素が超高圧力下で203 KものTcを持つことが発見されました。これにより、20年ぶりにTcの最高値が30 Kも更新され、水素化合物という水素を多く含む物質系が大きく注目されています。本研究では、100 GPa(100万気圧)以上の超高圧力というパラメータを用いて水素化合物を合成し、常圧では実現できない、より高いTcを持つ新しい高温超伝導体の発見を目指します。
本研究課題では、硫化水素を母物質とした新しい超伝導体の発見を目的とする。高い水素密度をもつ水素化合物は高い超伝導転移温度Tcを持つことが理論的に予言されており、近年、相次いで硫化水素やランタンの水素化合物が150万気圧 (150 GPa) の超高圧下で200 Kを超えるTcをもつことが発見された。さらに、2020年には、Diasらにより炭素-硫黄-水素 (C-S-H) の三元系水素化合物において270 GPaでTc~288 Kが報告されたが、未だにこの物質の超伝導の再現性や超伝導相の結晶構造は調べられていない。初年度は、この炭素-硫黄-水素の3元系水素化合物を高圧下で合成し、超伝導の再現性や結晶構造を明らかにするために、まずは試料の合成を実験を行った。・硫黄-炭素-水素の3元系水素化合物の高圧力下合成圧力発生装置にはダイヤモンドアンビルセル (DAC) を用い、試料の合成はDiasらの報告の通りに行った。合成のための試料となる硫黄と炭素の混合物は東北大学の折茂教授から提供を受けた。この試料を電極をセッティングしたDAC内に設置し、その後、NIMSで水素充填を行った。充填後、試料を4.0 GPaまで加圧し、パワーを20-25mWに調整した532nmのレーザーを硫黄-炭素混合物に30分程入射して硫黄―炭素混合物と水素を反応させた。反応後の試料についてラマン分光測定を行ったところ、硫化水素と考えられるS-Hの結合が観測された。しかし、Diasらの報告にあった、メタンと考えられるC-Hの結合が観測されず、出発物質となる試料の合成ができなかった。
4: Progress in research has been delayed.
目的の試料が合成できず、物性測定に進むことができなかった。初年度は、Diasらによる報告のあった炭素-硫黄-水素の3元系化合物の合成とその超伝導相の結晶構造を明らかにすることを目的とし、4.0 GPaでの試料の合成後、140 GPa以上の圧力で電気抵抗の温度依存性を測定して超伝導を探索する予定であった。しかし、出発物質となる試料が報告の通りに合成できなかった。試料を加圧するダイヤモンドアンビルは、一般的に、70 GPa以上の圧力まで加圧すると、応力により減圧中に粉砕してしまい再使用できない。そのため、初年度は試料合成に成功できず、加圧に移行することができなかった。
初年度は硫化水素と考えられる試料の合成はできたものの、報告にあったC-Hの結合を有する物質を合成することはできなかった。そのため、次年度は、1)の炭素-硫黄-水素の3元系水素化合物を高圧下合成に注力し、並行して、2) 新しい水素化合物の合成とその超伝導の探索をすることを目指す。1) 試料はメカニカルミリングを行った炭素-硫黄の微粉末を既設の顕微鏡付きグローブボックス内でDAC内に封入し、冷却して液化した水素もしくは高圧水素ガス充填する。その後、SPring-8のBL10XUもしくは所属の研究室に既設の赤外 (1064 nm) もしくは緑色 (532 nm) レーザーを試料に入射し、水素と元素を4 GPaまでの低圧で反応させる。しかし、報告のあった通りに試料を合成できなかったため、報告とは別のC-H結合をもつ試料を使用した合成方法を模索する。合成ができれば、その後、室温で超伝導の現れる140~260 GPaまで加圧し、SPring-8のBL10XUにて放射光X線回折測定を行う。その後、電極を挿入したDACで電気抵抗測定との同時測定を行い、超伝導相の結晶構造を観察する。2) リンをドープした硫化水素に関して合成と超伝導の探索をおこなう。リンのドープは、硫黄とリンと水素を高圧下で反応させて合成して行う。ドープの方法は少量のリンを硫化水素と共に充填する方法、少量のリンと硫黄と水素の混合物を加熱して合成する方法、5硫化2リンなどの化合物と水素の混合物を加熱する方法が考えられる。次年度では、5硫化2リンと水素の混合物を使用して高温高圧合成を行う。試料は引き続き、東北大学の折茂教授および金助教に試料提供を受け、NIMSの中野智志氏との共同研究により高密度水素をDAC内に充填する。