Publicly Offered Research
Grant-in-Aid for Scientific Research on Innovative Areas (Research in a proposed research area)
動物が生存していくためには、時々刻々と変化する環境に対して適切なタイミングに行動を行う必要がある。しかし我々の身体には生理的な時間遅れが存在するため、いちいち感覚情報を確認してから行動を決めていてはダイナミックな環境変化についていくことが出来ない。そのため我々の中枢神経系は過去の感覚情報(過去)を元に、身体の状態(現在)を推定して、これからの運動指令(未来)を決定していると考えられる。本研究では1) 過去の感覚情報から身体状態を推定する「人工神経回路」を構築し、さらに2) 前頭-頭頂皮質の多チャンネル神経活動記録と比較することで、予測に基づく運動制御の神経メカニズムを明らかにすることを目指す。
本研究では予測的な運動制御の神経機構を明らかにするために、以下の2つのPhaseを達成することを計画した。まずPhase1では、サルから記録する行動データに基づいて過去の感覚情報から未来の状態を推定する神経計算モデル、すなわち「状態推定」の計算モデルを構築する。次にPhase2では、Phase1で同定した状態推定の神経基盤を明らかにするため、マカクザルを対象とした前頭-頭頂皮質の多チャンネル神経活動記録およびその神経活動阻害を行い人工神経回路と実際の神経回路の対応を明らかにする。まずPhase2の生理実験に関して、マカクザル2頭に対して到達運動を用いた力場への適応課題の訓練を完了し、肩・肘の16筋への筋電図電極の埋め込み手術、さらに前頭-頭頂皮質皮質の上に皮質脳波(Electrocorticogram, ECoG)記録用の電極の埋め込みに成功した。これにより力場適応課題中の前頭頭頂領野での誘発電位の変化を検討した。1頭目において、学習初期には背側運動前野(PMd)、一次運動野(M1)、一次体性感覚野(S1)、頭頂葉5野(A5)で力場開始後に生じる誘発電位が生じたが、学習後期になるとPMd、S1、A5での誘発電位が減弱した。その一方、S1およびA5では、力場開始前から始まる予測的な神経応答が観察されるようになった。次にPhase1のモデルリングに関して、時間的シフトを確率的状態推定モデルである「カルマンフィルタリング」に基づきシミュレーションしたところ、力場開始後に誘発される電位応答は力場の「感覚予測誤差」を表現し、力場開始時点をピークとする予測的成分が力場の「事前推定」を表現するというモデルと神経活動との相同性が見られた。この結果は、感覚情報の時間遅れを補償するためにカルマンフィルタリングによる状態推定が頭頂葉を含む神経回路によって行われていることを示唆する大変有用な知見であった。
令和4年度が最終年度であるため、記入しない。
All 2022
All Journal Article (1 results) (of which Peer Reviewed: 1 results, Open Access: 1 results)
Frontiers in Systems Neuroscience
Volume: 16
10.3389/fnsys.2022.800628