Publicly Offered Research
Grant-in-Aid for Transformative Research Areas (A)
世阿弥は「能では幽玄であることが第一に大事である」と述べている。奥深くはかり知れない様子を表す「幽玄」という言葉は、まさに日本の伝統的な深奥質感のことである。本研究では、spectro-temporal modulation(STM, スペクトル・時間変調)に着目し、ヒトが幽玄を知覚する謡曲特有の物理特性を明らかにすることを目的とする。STM情報を用いることで、幽玄を生じさせるスペクトル変調成分(声帯および声道の動きと対応)、および時間変調成分(アンビエントの変化に対応)を示す。また、STM情報を変化させたときに幽玄の知覚がどのように変わるかを知覚実験によって調べる。
本研究の目的は、spectro-temporal modulation(STM, スペクトル・時間変調)に着目し、ヒトが幽玄を知覚する謡曲特有の物理特性を明らかにすることである。「日本的な美としての幽玄」を知覚させる謡曲に含まれる物理特徴が何であるかを、謡曲に含まれるヒトの発声だけに着目するのではなく、舞台空間および能面によるアンビエントの変化にも着目した。謡曲の幽玄に関わるSTM情報を明らかにすることで、幽玄を生じさせるスペクトル変調成分(声帯および声道の動きと対応)、および時間変調成分(アンビエントの変化に対応)を示すことを目指した。まずは、発話者やアンビエントの違いによって謡曲にどのような違いがあるのかを分析するために、様々な条件で謡曲や自然発話の収録を行った。熟練度や流派の異なる発話者(老若男女の能楽師と謡曲を習う能楽愛好家)の音声を14名分収録できた。また、舞台環境も防音室も含めて5か所、能面も5条件(4面と付けない条件)の収録ができた。次に、収録した謡曲をSTM分析した。その結果、(まだ定量的な評価にとどまるが)熟練者ほどSTM情報がスパースである傾向が見られた。また、アンビエントの変化は時間変調成分に顕著に表れており、能面の方が舞台よりもSTM情報に影響を与えていた。最後に、収録した音声の心理評価を知覚実験によって行った。謡曲の幽玄をどのように実験参加者に評価させるかは今後の検討が必要であるが、今回は、「良いと感じるか」を評価指標とした。実験では、サーストンの一対比較法により、熟練度の異なる話者の謡曲を実験参加者に評価させ、謡曲の良さの心理スケールを求めた。その結果、熟練度の高さにしたがって心理スケール上にプロットされた。今後は、謡曲のSTM情報と心理スケールとを対応させることを行い、謡曲の心理評価に対応するSTM情報を明らかにしていく。
令和4年度が最終年度であるため、記入しない。
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