Publicly Offered Research
Grant-in-Aid for Scientific Research on Priority Areas
本課題は、フラストレートしたスピン系に特徴的に生じる量子スピン液体状態における、熱力学的な側面からの理解と新たな現象開拓を進めることを目的とする研究である。最終年度である、平成23年度は、基底状態がスピン液体になる有機三角格子Mott絶縁体であるEtMe_3Sb[Pd(dmit)_2]_2を中心に、カチオン部の置換によって現れる基底状態の熱力学的特徴の系統的な変化を調べることを行った。カチオンをMe_4Sb,EtMe_3Asにした系では基底状態は反強磁性となり有限のγ項は消失する。またEt_2Me_2Sbの塩は電荷秩序状態に位置し、ここでもγ項は零になる。同時に、両秩序相での熱容量の値はスピン液体相と比較すると抑制され、その効果はC_pT^1 vs T^2の傾きに相当するβの値に顕著に反映することが判明した。スピン液体状態が、二量体ユニット内の電荷の自由度を通して格子の自由度ともカップルし、比較的柔軟な格子をつくることが明らかになった。さらに、これらの物質で生じるC_pT^1のhump構造につて検討を行い、三角格子性からのずれを示すパラメターであるt'/tとhump温度に相関があることが明らかになった。上記の有機三角格子系の熱測定と並行して、カゴメ格子のフラストレート系である天然鉱物であるVolborthite (Cu_3V_2O_7(OH)_2・2H_2O)の微少量試料を行った。特に、試料依存性を詳細に検討したところ、3Kより高温の温度領域では熱容量に大きな試料依存性はないが1 K付近の構造にガラス凍結のような性質を示す試料と相転移的なピーク構造を示すケースがあることが判明した。1 K付近に生じる磁気異常は短距離的な秩序形成であり試料の質や不純物によって大きく影響を受けることが明らかになった。スピン液体中で生じる新しいタイプの相転移であること考えられ、今後の理論研究の展開に大きな指針を与える結果である。
All 2012 2011 2010
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Thermochimica Acta
Volume: 532 Pages: 88-91
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