Publicly Offered Research
Grant-in-Aid for Scientific Research on Innovative Areas (Research in a proposed research area)
本研究は、古代マヤ社会の異なった空間における戦争に関する儀礼を比較して、暴力が身体化・物質化する社会プロセスを解明することを目的とする。古代社会の戦争に関する研究は、戦争の有無、戦術や武具、戦争技術面、政治体制の崩壊などを、中央集権化や社会階層化などといった社会変化と結びつけて研究されてきた。これらの先行研究は社会変化のプロセスを解明する上で重要な成果を挙げた一方で、戦争が生活の一部として浸透し、文化概念として身体化・物質化する過程で形成される社会関係についてはあまり検討されていない。本研究は、メキシコのカンペチェ州のエル・パルマール遺跡の王宮を発掘・修復して暴力の身体化と物質化を検討する。
本研究は、古典期マヤ王朝における戦争と儀礼の関係を明らかにすることを目的としている。エル・パルマール王朝の戦争への介入に関する直接的な証拠を得るために、本夏の調査は、特に石造記念碑の解読作業に重点を置いた。本年度は、これまで未調査の石造記念碑を高精度三次元計測によって復元し、そこに刻まれた図像と碑文を解読した。調査した7基の石造記念碑の中でも、石碑18の解読によって、エル・パルマール王朝が戦争に介入した直接の証拠を明らかにした。石碑に刻まれた碑文によると、エル・パルマール王朝は、後750年4月4日に諸王朝を焼き討ちし、その約1年後にあたる751年5月10日に、マヤ暦の完了を記念して大広場で儀礼が実施されたようである。石碑には、後ろ手に縛られて胡坐をかいた2人の高位の捕虜が背中合わせに座っている。これまでの調査と今回の発見により、エル・パルマール王朝の繁栄には、戦争と儀礼のどちらも必要であったと考えられる。王宮を放棄する際の終結儀礼の焼け跡から出土した炭化物の同定は、フランス コート・ダジュール大学のリディア・デュッソル博士の協力により実施された。走査型電子顕微鏡による古植物種を同定結果、建物に使われたサポテ科以外にも、マツ材を特定した。熱帯雨林におけるマツ材の存在は、儀礼の際に火をたくために使われた証拠である以外にも、古典期終末期(後800-900年頃)の大規模な森林伐採と干ばつによって生態系が変化し、熱帯雨林の植生に温帯の針葉樹が侵入したためであると推測される。これらのデータを昨年の調査成果に照らし合わせると以下のように考察できる。736年に、マヤ低地で最大の蛇王朝がティカル王朝に敗北して瓦解した時に、蛇王朝の同盟国も衰退する中で、エル・パルマール王朝はむしろその勢力を拡大して周辺王朝に軍事・政治介入した。その際に、戦争と祭祀は重要な役割を果たしたようである。
令和5年度が最終年度であるため、記入しない。
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All Int'l Joint Research (6 results) Journal Article (1 results) Presentation (15 results) (of which Int'l Joint Research: 10 results, Invited: 3 results) Book (1 results)
The Mayanis
Volume: 4 Pages: 73-92