Publicly Offered Research
Grant-in-Aid for Scientific Research on Innovative Areas (Research in a proposed research area)
本研究は、多能性幹細胞の「未分化状態と分化状態の遷移」および「その遷移制御機構」を、ES細胞の変異体を用いて情報物理学的に理解することを目的とする。方法としては、分化刺激を与えれば100%の細胞が分化する野生型ES細胞と、分化刺激を与えても未分化状態の細胞が出現し続ける変異型ES細胞の振る舞いを、ライブセルイメージング、1細胞RNA-seq解析、Micro-Cによる核内ゲノム三次元構造解析という3種類の手法によって定量・比較し、数理モデルを構築することで、正常のES細胞がどのように未分化状態から分化状態へと遷移していくのかを理解する。
本研究では、マウス多能性幹細胞がどのようにして未分化状態から分化状態へと遷移していくのかを、情報物理学的に解析することを目的としている。この目的を達成するために、「分化刺激を与えれば100%の細胞が分化する野生型ES細胞」と「分化刺激を与えても未分化状態の細胞が出現し続ける変異型ES細胞」を、様々な方法(後述(1)から(3))を用いて比較することで、正常な多能性幹細胞の分化制御機構を理解することを目指した。研究の方法として、以下を計画した。まず、細胞集団レベルの分化制御機構を理解するために、(1)野生型ES細胞と変異型ES細胞の分化誘導前と分化誘導後の1細胞RNA-seqを行い、trajectory解析を行うことで、野生型ES細胞と変異型ES細胞の運命を分ける鍵となる転写因子を同定する。(2) これらの転写因子に蛍光タンパクをノックインし、分化誘導前後の振る舞いをライブセルイメージングによって定量・比較し、数理モデルを構築する。次に、上述の遺伝子発現の背後に存在しているクロマチン構造レベルでの分化制御機構を理解するために、(3) 野生型ES細胞と変異型ES細胞の分化誘導前と分化誘導後のMicro-C解析を行い、野生型および変異型それぞれに特異的なクロマチン構造を抽出する。令和4年度は、上述(1) で同定した3つの転写因子に蛍光タンパクをノックインし、(2) のライブセルイメージングを行ったが、数日間にわたる長期イメージングに難航している。(3)のMicro-C解析については、令和4年度に情報解析を行い、野生型および変異型それぞれに特異的なクロマチン構造が抽出された。しかし、この抽出された構造の生物学的意義を理解するために、新たにChIP-seq解析を行う必要性が生じた。
3: Progress in research has been slightly delayed.
令和4年度は、Micro-C解析の情報解析に注力した。その結果、野生型および変異型それぞれに特異的なクロマチン構造が抽出された。しかし、この抽出された構造の生物学的意義を理解するために、新たにChIP-seq解析を行う必要性が生じ、現在はその準備を進めている。また、令和4年度にライブセルイメージング解析の完了を目指していたが、特に変異型マウスES細胞は光毒性に弱く、長期イメージングが難しいため、未だ条件検討の範囲に止まっている。ライブセルイメージング用の顕微鏡に関しては、同じ新学術内の共同研究者よりご支援をいただく予定にしていたが、コロナ渦のため、共同研究者の所属している施設に行く回数も少なくなってしまった。
今後も、1細胞RNA-seqにより抽出された鍵となる転写因子のライブセルイメージングを行う予定である。蛍光タンパクの変更、顕微鏡の撮影条件の最適化、画像解析方法の検討などを行い、最終的に数理モデル構築を目指す。ChIP-seq解析については、新たに実験系を立ち上げる必要性があるが、本手法に熟練した研究者との共同研究体制を整えることができた。できるだけ早期にChIP-seq解析を行い、Micro-Cの情報解析結果との統合をすすめていきたい。