Publicly Offered Research
Grant-in-Aid for Scientific Research on Innovative Areas (Research in a proposed research area)
キネシンは二つの足(頭部)を交互に動かしてレールの上を歩くようにして移動しながら、細胞内での物質輸送などに関わっている。細胞内のキネシンは激しい熱ゆらぎにさらされながら効率的に働いているが、外部のゆらぎを自身の効率的な運動に活用する仕組みはまだよく分かっていない。本研究では、高い時間分解能を有する一分子計測法によりキネシン内部の構造ゆらぎを直接計測することにより、キネシンが分子内のゆらぎを整流して化学エネルギーを方向性のある運動に変換する仕組みを情報熱力学的な観点から明らかにすることを目指す。
本研究は、キネシンが分子内のゆらぎを整流して化学エネルギーを方向性のある運動に変換する仕組みを情報熱力学的な観点から解明することを目標とする。そのために、キネシンの運動に関わる2つのゆらぎ、キネシンの頭部が微小管から解離して前方に結合するまでの頭部のブラウン運動と微小管に結合して解離するまでのアロステリックな構造揺らぎ、を高速一分子観察法を用いて、野生型キネシンおよびさまざまな変異体キネシンを用いて直接検出し、これらのゆらぎが化学ヌクレオチド状態や構造状態によってどのように変化するのかを明らかにする。本年度は、浮いた頭部が前方の結合部位に結合した後のADP解離のステップがキネシンの連続的運動能に与える影響を明らかにするために、ADP解離の遅い変異体を用いて研究を行った。連続的運動や運動を終了する直前の動きを高速一分子観察法を用いて観察することで、ADP解離が連続的運動能に与える影響を調べた。K256A変異体とI254A変異体というADP解離速度に違いのある2種類の変異体と野生型からなるヘテロダイマーを作成し運動を観察したところ、ADP解離速度が遅いほど運動速度と移動距離が低下した。また、野生型に比べて変異体は、頭部が前方の結合部位に結合した後、可逆的に結合解離を繰り返すようすが頻繁に見られた。一方、溶液中のリン酸濃度を上げると野生型の移動距離が低下したのに対して、変異体は逆に移動距離が上昇した。これらの結果は、両頭部の解離は前頭部からのADP解離よりも先に後頭部からのPi解離が起きることによって引き起こされることを示唆するものである。
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
ADP解離の遅い変異体の候補としていくつかの変異体を遺伝子組み換えにより作製し、一分子レベルでの運動を調べたところ、移動距離が低下したものの十分な頻度で運動を示した変異体を二つ同定することができた。それにより、さまざまな運動のパラメータを求めて統計的に野生型と比較することが可能となった。また、ヌクレオチド条件を変化させて運動を観察したところ、その中でリン酸添加によって移動距離が逆に回復するという意外な結果が得られた。これらの結果を説明するための新しいモデルを構築し、それを検証するために新しい実験を進めることができた。
高速一分子観察により明らかにした頭部のブラウン運動やアロステリックな構造ゆらぎが、外力によってどのような影響を受けるのかを 調べるために、DNAナノスプリングを用いてキネシンに負荷をかけ、負荷の見積もりと高速一分子観察を同時に行う。バネのように伸び縮みす るDNAオリガミの片端に金コロイド標識したキネシン、もう一方の端に微小管に結合した後解離しにくい変異体キネシンをつける。この実験系を用いて運動中の頭部のゆらぎの大きさや周波数特性が負荷によってどのよ うに変化するのか、また頭部の回転のタイミングや回転前後の回転ゆらぎが負荷によってどのように変化するのかを定量的に調べる。
All 2023 2022
All Journal Article (1 results) (of which Int'l Joint Research: 1 results, Peer Reviewed: 1 results, Open Access: 1 results) Presentation (2 results)
Nat. Commun.
Volume: 13 Issue: 1 Pages: 5424-5424
10.1038/s41467-022-33156-5