Publicly Offered Research
Grant-in-Aid for Transformative Research Areas (A)
地球環境問題が顕在化する現在、全球レベルでの地球環境の把握が進む一方で、ヒトが生活している地域レベルの環境の把握は、多地点で長時間にわたって調査をする必要があり容易ではない。本研究は昆虫を対象とし、その同位体組成、そして腸内DNAメタバーコーディング分析から物質循環と生物多様性に関する環境情報を読み解くことを目的とする。本研究の成果は、昆虫を用いた効率的な環境モニタリング手法の開発につながると期待される。
近年の人間活動の増大によって気候変動や窒素負荷、生物多様性の喪失といった地球環境問題が引き起こされている。この問題への対処には環境の現状の正しい理解が必要である。現在、全球レベルでの環境の把握は進んでいる。一方、人間が生活する流域スケールでの環境は、時空間的変動が大きいため、その把握に非常に多くのコストがかかる。本研究では最も生物多様性が高く陸上でバイオマスが大きい動物である昆虫に着目し、その同位体とDNA情報から流域スケールの元素循環と生物多様性に関する情報を効率的に取得する手法を提示することを目的とする。2022年度は、日本のモニタリング1000の複数の森林サイトや関西の都市部で既に得られていた昆虫試料の酸素や窒素炭素の安定同位体や放射性同位体の測定や腸内DNA分析などを行った。その結果から、昆虫が周辺環境の窒素負荷や化石燃料の排出など、生息地周辺の環境への人為影響をよく反映していることが明らかになった。また、北海道から沖縄にわたり採集した昆虫の酸素同位体比は採集地点での河川水の同位体比を反映することが明らかとなった。このことから、酸素同位体は日本列島の昆虫の出生地の判別にも利用可能なことがわかった。これらの試料の分析の他、昆虫試料の保存や作業に用いられるエタノールや純水が昆虫の同位体比に与える影響についても確認する実験を行い、昆虫試料を同位体試料として用いることに問題ないことを確認した。さらに糞虫の腸内DNA分析の結果からは、哺乳類のDNAが検出され、餌資源として利用している哺乳類の同定が可能であることなどがわかった。
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
腸内DNA分析に関して、抽出部位の影響を検討することに予想以上に時間を費やしたが、検討の結果、良好な結果を得ることが出来た。その他、同位体分析等については順調に進んでいる。
手法の有効性や分析精度などの検討を終えたので、2023年度は試料数を増やすこと、また他の研究班と連携して、環境水中の酸素水素同位体についても研究対象を広げる予定である。
All 2023 2022
All Journal Article (1 results) (of which Peer Reviewed: 1 results) Presentation (3 results)
Biogeochemistry
Volume: 161 Issue: 3 Pages: 273-287
10.1007/s10533-022-00978-w