Publicly Offered Research
Grant-in-Aid for Transformative Research Areas (A)
古来より、人は海の生態系から恩恵を受け生活している。海洋生態系を将来に渡って利用し続けるには、近年報告されている気候変動や人間活動に伴う海洋生態系への影響を理解することは重要である。これらの研究は、比較可能で整理されたデータがある1900年以降から現在に集中している。一方、四方を海に囲まれている我が国において、海洋生態系と人・気候の関わりを記録した文献は過去数百年分あるが、地球環境学的視点に基づき海洋生態系の変動に対する気候や人間活動の影響を長期間研究した例は少ない。過去の文献から、日本沿岸における海洋生態系変動に着目し、過去における海洋生態系と環境・人の関わりを明らかにする。
本研究課題では、日本の南岸を流れる黒潮と日本海を北上する対馬暖流の影響を受けやすい都道府県を8つ(千葉、東京、神奈川、静岡、新潟、富山、石川、長崎)選び、各都道府県が発行している統計書(例えば、千葉県統計書など)の水産業と農林水産省が発行している農林水産統計年報(例えば、千葉農林水産統計年報)の水産業の統計資料を中心に収集している。収集方法は、直接現地の県立図書館や公文書館(または、文書館)を訪問し、統計資料の保存状態(紙媒体やマイクロフィルムなど)や保管年代を確認し、複写できるものはコピーやスキャナーで収集している。保管されてない年代については、国会図書館が管理するデジタルコレクションや他県の図書館、大学、水産系の研究機関等の図書館などで所蔵を確認して抜けている年代を収集している。特に、戦前以前の資料については、震災(関東大震災)や戦争などの影響で発行できていない年もあることを確認している。同時に、農林水産省図書館には、都道府県単位の漁獲量データが記録された統計資料(農商務統計表、現在は農林水産省統計表)が所蔵されており、各都道府県で資料のない年代を補完するため収集している。統計資料の保管は、都道府県毎で異なり、1つの図書館や公文書館で全ての年代を取集できないため、併用して統計資料を所蔵している機関を検索して実施している。また、漁獲量データの収集と並行して、環境変化を調べるため、各都道府県の気象データや公共用水域の水質測定データなどもインターネットで公開されている期間に加えて、直接管理している機関に問い合わせて、収集している。
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
令和4年度は、水産業に関する資料を中心に、魚種毎の漁獲量データが記録されている明治27年(1894年)から現在(2022年)にかけて収集している。漁獲量データは、農林水産省が中心となって、明治政府発足以降、統計資料として公表されている。時代毎で収集された統計の内容は異なり、大別すると主に2つの時代で統計資料を分ける必要がある。1つ目は、明治27年(1894年)から昭和26年(1951年)までで、各都道府県でまとめた統計書の水産業の項目に記録されており、主に各都道府県で収集された統計資料として、記録されている。2つ目は、農林省統計調査部が中心となって、昭和27年(1952年)以降に収集された統計資料で、各都道府県農林水産統計年報(現在は、各農政局毎の統計年報)として記録されている。
令和5年度前半は、昨年に引き続き、次に挙げる1から4の項目を行う。1)文献の貸出及び閲覧、複写や文献自体の購入によって、関係する情報の収集を行う。2)収集する情報の整理(デジタル化)を行う。3)整理する情報を地球環境学的な知見に基づき翻訳する。4)インターネット上で公開されている情報、例えば、気温、海面水温、降水量、水産資源量、開拓や干拓などの人間活動に関する情報を収集する。令和5年度後半は、翻訳する情報に基づき水産生物の過去の長期変動が環境変化と人間活動に対してどのような影響を受けているのかを解析し論文にまとめる。水産生物の長期変動が環境変化と人間活動に対してどのような影響を受けているのかを明らかにするため、昨年度と令和5年度前半で収集・整理し、翻訳した情報を用いて解析する。歴史的な情報を再構築することで、将来の気候変動や人間活動の影響に対する適応策・緩和策の検討に貢献し、関係する研究分野に対し、翻訳する過去の情報を提供する。