Publicly Offered Research
Grant-in-Aid for Transformative Research Areas (A)
目や手、脳のない原生生物の有殻アメーバは細胞外の鋳型のない空間に、仮足を使って卵型の被殻を構築するが、その原理は分かっていない。本研究は2種類の有殻アメーバをそれぞれジオラマ環境下におき、観察することで、被殻構築行動原理を明らかにする。①被殻のパーツを細胞内で自作するポーリネラにおいて、被殻構築の妨害などをした後の有殻アメーバの行動を解析し、被殻構築と細胞周期との連携や被殻構築プロセスの柔軟性に着目して議論を行う。②環境中から被殻のパーツを拾い集めるナガツボカムリにおいては、培養株の確立から始め、環境中のパーツ材料を与え、被殻構築行動を観察し、パーツの選定要因を明らかにする。
目や手、脳のない原生生物の有殻アメーバは細胞外の鋳型のない空間に、仮足を使って卵型の被殻を構築するが、その原理はわかっていない。本研究は被殻のパーツを細胞内で形成するポーリネラと環境中からパーツを拾って被殻の一部とするツボカムリの2種類の有殻アメーバをそれぞれジオラマ環境下におき、観察することで、被殻構築行動原理を明らかにすることを目的としている。本年度は被殻のパーツを細胞内で自作するポーリネラにおいて、光ピンセットやマイクロマニピュレーターを用いて被殻構築を妨害したり、パーツを剥奪するなどした後の有殻アメーバの行動を光学顕微鏡を用いてタイムラプスビデオ観察により解析する系を確立することに成功した。ポーリネラの鱗片は短辺が約1 μm、長辺が長いものでも約4 μmと非常に小さく、操作が困難であった。まずは光ピンセットまたはマイクロマニピュレーターを用いて被殻構築中の細胞から鱗片の剥奪実験を試みた。まず、光ピンセットでの実験の結果、細胞から鱗片を剥がそうとすると鱗片をもとの位置に戻そうとする力が働き、鱗片を引き剥がすことが難しかった。そこで、マイクロマニピュレーターを用いて同様の実験を行った。本実験には2台のマイクロマニピュレーターを用いた。一つは口径4 μmのガラスキャピラリーを装着して母細胞側の被殻を吸引固定するために用い、もう一つは先端がかなり細く加工されたガラスキャピラリー(フェムトチップ)を装着し、鱗片の操作に用いた。その結果、被殻構築中もしくは被殻構築前の細胞から鱗片を1枚だけ剥奪することが可能となった。また、環境中からパーツを拾って被殻を構築するツボカムリの培養をスタートさせ、様々な生物が混入した状態ではあるが安定して飼育する環境整備を整えた。
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
2022年度は被殻構築中の有殻アメーバのポーリネラにおいてマイクロマニピュレーターを用いて細胞外鱗片を人為的に操作する系を確立することができたのは大きな成果だと考えている。しかし、本実験には電動式のマイクロマニピュレーターを2台必要としており、2022年度は予算の問題から1台しか購入できず、デモ機を利用して実験成果を得た。2023年度はもう1台購入し、実験基盤を整えたい。
2023年度初めにはまずマイクロマニピュレーターをもう1台購入し、ポーリネラの実験基盤を整え、鱗片剥奪実験に加え、人工的に作成した代替鱗片を供与する実験も試みる。1日に1細胞程度しか観察することができないが、試行回数を増やし、鱗片剥奪または供与実験後のポーリネラの行動を観察することで被殻構築プロセスの柔軟性を明らかにしていきたい。また、ツボカムリの培養を安定させることができるようになったので、2023年度は被殻構築がどの様に行われているのかをタイムラプスビデオ観察により明らかにし、過去の文献と比較する。さらに、ガラスビーズ等を培地に添加し、それらを被殻の構成要素とするかどうか、被殻のパーツとして利用した場合はどこにどの様に配置されているのかを走査型電子顕微鏡を使って観察する。