Publicly Offered Research
Grant-in-Aid for Transformative Research Areas (A)
本研究では、弥生時代以降の農耕化の伝播に伴う日本の「食」の時空間的変遷を明らかにするため、土器試料から抽出した脂肪酸の水素安定同位体比を化合物レベルで分析し、従来法では識別が困難であった食材の起源(陸獣 or 淡水魚類、水棲動物の生息環境の違い)の解明を目指す。更に、土器試料から抽出した脂肪酸の水素安定同位体比分析と従来の分析手法を組み合わせることで本邦内陸部における稲作の伝播とそれに伴う水産資源利用の変遷を明らかにする。
本研究の目的は、土器残存脂肪酸の分子レベル水素安定同位体測定により、従来法では識別が困難であった陸獣と淡水魚類、水棲動物の生息環境の違いを明らかにすることである。今年度の研究は、日本列島における各種食材の水素同位体比の分布を明らかにするため、現生の動植物試料の分析を行った。用いた試料は、北海道函館周辺で採取された現生動植物試料19点(陸上植物6点、海棲魚類11点、海獣2点)である。分析の結果、海棲魚類のステアリン酸とパルミチン酸の水素同位体比の比率が、ヨーロッパやユーラシアの海棲魚類の分析値と整合的な値を示すことが明らかとなり、これらの脂肪酸の水素同位体比が本邦でも食材グループの識別(陸棲動物 or 海棲魚類)に利用できる可能性が示唆された。一方、水棲魚類の脂肪酸の水素同位体比は炭素同位体比に比べ、食材間での違いが大きくなっており、水素同位体比の測定により食材として利用された海棲魚類種の違いを検出できる可能性が示唆された。上記分析と並行して、滋賀県下之郷遺跡、山梨県下フノリ平遺跡、屋敷平遺跡の土器残存脂質の分析を行った。下之郷遺跡からは水棲動物のマーカーであるフィタン酸が一部試料から検出され、水棲動物の利用が示唆された。また、山梨県の遺跡では時代によりキビのバイオマーカーであるミリアシンの検出頻度が大きく異なっており、弥生前期に食材としてのキビの利用頻度が増加したことが示唆された。
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
初年度に計画していた現生食材試料の水素同位体比の測定が順調に進み、これまでに海棲動物と陸上植物試料の分析が無事終了した。また、上記分析と並行して土器試料の残存脂質の分析を進め、同位体測定試料を絞り込むことができた。
陸獣及び淡水魚類の食材分析を進め食材データベースを完成させる。その後、水産資源の利用の有無が明らかな土器試料の残存脂肪酸の水素同位体比分析を行い、古食性指標としての利用可能性を検証する。また、山梨県中部高地で新たに土器試料のサンプリングを行い、水素同位体比を用いた古食性解析を行う。