Publicly Offered Research
Grant-in-Aid for Transformative Research Areas (A)
本研究では、人骨・動物骨の安定同位体分析により、異なる生業を持つ各地域・時代の集団内で動物の飼育方法や出自にバリエーションが存在し、また動物種の序列や犠牲に用いる際の規定が先史時代に存在したのかを検証する。第一に社会の階層化が指摘される新石器時代後期から青銅器時代集団において、埋葬から階層の違いが確認される個人の食物利用を比較することで、階層上位者および下位者がどの動物を主に食していたのかを検証する。第二に動物種内において個体ごとの餌の違いを検証し、餌や飼育環境の異なる「特別な個体」の検出を目指す。供犠に用いる「特別な個体」がどのような環境で生育されたかを餌の側面から検証する。
本研究は犠牲や倍葬などの儀礼に用いられた動物への特別な給餌習慣の検討を進めている。今年度は以前の調査を継続し、7月に中国広東省の青銅器時代初期の貝塚遺跡、銀洲遺跡と村頭遺跡資料の調査と動物遺存体資料の採取し、同位体分析を行った。銀洲遺跡と村頭遺跡はどちらも広州湾沿いの貝塚遺跡であるが、銀洲は珠江沿いのやや内陸に位置し、村頭遺跡は河口部の広州湾岸に所在するという立地の違いがある。2遺跡の違いとして印象的なのがイヌの同位体比の違いである。村頭の集団はより水産資源に依存した漁撈民である一方で、イヌの水産資源利用は低調で、水産物は主にヒトが消費していたようである。銀洲の人々は自らの海産物利用は控えめであるにも関わらず、イヌには積極的に海産物を与えていた。この様な違いが見られた原因として、引き続き考古遺跡での類例や民族事例に当たってイヌへの海産物の給餌に儀礼的な意味があったか検討を進める必要がある。本成果は2023年8月にオーストラリアのケアンズで開催された『14th International Council for Archaeozoology Conference(第14回 国際動物考古学会)』で発表した。またB01班およびE01班公募研究の中村大介氏、F01班公募研究の植月学氏と連携し、儀礼的に埋葬されたウマへの給餌を明らかにするため、寧夏回族自治区の姚河遺跡、モンゴル国のヒルギスーリーン・グデン遺跡の埋葬馬、キルギス共和国のアク・べシム遺跡出土動物骨の分析を進めている。ブタの儀礼的な埋葬と給餌については、これまでに調査を行ってきた甘粛省の斉家文化期の磨溝遺跡、火焼溝文化期の火焼溝遺跡、西河灘遺跡の事例について論文投稿中である。
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
ウマやブタ、イヌの埋葬事例については資料調査と分析に着手することができ、その食性復元や同遺跡出土の他の動物種との比較による給餌の違いについての検討が進んでいる。また、対象遺跡は甘粛省や広東省、モンゴル、キルギスなどの中原から離れた古代中国の辺境地域であり、従来から議論が進んでいる中原とは異なる動物供犠の在り方やその時代変化が見えつつある。一方で、当初の計画にあった中原などの中国文明の中心地に位置する遺跡における調査が進んでおらず、ウシを頂点とする伝統的な中国の動物序列に基づく給餌の差を確認することができていない。周辺との比較対象としても中原の遺跡における分析の不足は問題になると考えられる。
2024年は昨年度に採取した動物骨の同位体分析とその結果の解析を進める。寧夏回族自治区、甘粛省、雲南省、モンゴル、キルギスで採取済みの動物骨の同位体分析を行い、儀礼的に埋葬された動物とそれ以外の食用などに利用された動物の比較や種ごとの給餌の違いを比較する。また周辺地域と中原の差異を確認するためにも、公募研究として参画している学術変革領域研究(A)の計画研究班とも協調し、中原地域の資料調査と動物骨の同位体分析による給餌実態の復元を進める。陝西省の石ぼう遺跡を中心に、黄河流域におけるウシの儀礼的埋葬個体の調査を行い、中原における特別な個体への特別な給餌の起源と時代変化を検証する。最終年度のなる2024年度には、これらの成果を雑誌論文に投稿し、成果公表を行う。
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