Publicly Offered Research
Grant-in-Aid for Transformative Research Areas (A)
星間塵の表面は様々な分子が混入したアモルファス状の氷(dirty ice, 汚い氷)で覆われており、構造や化学的性質が星間塵表面における化学反応に決定的な影響を与えると考えられているが、その原子スケールの性質は不明である。本研究では、最新の機械学習技術を用いた分子スケールシミュレーション手法である機械学習分子動力学法を用いて、アモルファス構造を持つ“汚い氷”のミクロスコピック構造の再現とその検証を実施する。本研究が成功すれば、“汚い氷”の原子スケールモデルが完成し、星間塵表面における化学反応シミュレーション研究の基礎を築くことができる。
本研究は、星間塵表面の非晶質氷の原子スケール構造を分子動力学シミュレーションで再現し、その物性を解明することを目的としている。今年度は、量子力学に基づく第一原理計算の結果をガウス過程回帰で学習し、高速かつ高精度に原子の運動をシミュレートする「機械学習分子動力学法」を用いた研究を実施した。Vienna Ab initio Simulation Package (VASP)のオンザフライ学習機能を用いて、広範囲の温度における水のNPTシミュレーションの結果を学習させ、さらに、いくつかのタイプの結晶氷についても複数の温度においてNPTシミュレーションの結果を学習させた。そして、学習済みの機械学習ポテンシャルを用いて、訓練データを作成した系よりも大きな系を室温から100Kまで急冷し、非晶質氷の作成を試みた。その結果、非晶質的な構造の形成が確認され、さらに、比較的大きな空洞状の構造が見られた。古典分子動力学による先行研究では、空洞状の構造が形成されることが確認されており、この結果自体に問題はないと考えられた。しかし、シミュレーションの過程を詳細に調べたところ、急冷前の液体の状態においてすでに空洞状の構造が確認され、シミュレーションがうまくいっていないことがわかった。その一方、訓練データと同程度の大きさの系では問題は確認されなかった。さらに、オンザフライ学習過程におけるガウス過程回帰の情報を精査したところ、ガウス過程回帰で扱える訓練データ量を超えてオンザフライ学習が実施されていることがわかった。以上より、本シミュレーションで見られた異常な構造の形成は、機械学習ポテンシャルの訓練データの不足によるものであると結論づけられる。
3: Progress in research has been slightly delayed.
今年度の研究によって、十分な精度を持つ機械学習ポテンシャル作成のためには、当初の予想よりも多くの訓練データが必要であることがわかった。今回用いたガウス過程回帰は比較的少ない訓練データしか扱えないため、大量の訓練データに対応できなかった。
人工ニューラルネットワークはガウス過程回帰に比べて多くの教師データを学習することができるため、用いる機械学習の手法を人工ニューラルネットワークに変更する。教師データについては、今年度の研究で十分な量が得られていると考えられるため、機械学習の手法の変更で問題が解決すると考えられる。
All 2024 2023
All Presentation (3 results) (of which Int'l Joint Research: 2 results, Invited: 2 results)