Publicly Offered Research
Grant-in-Aid for Transformative Research Areas (A)
本研究では、ナノサイズの空隙と分子性導体部位を併せ持つ多孔性分子導体(PMC)を基盤として、配位結合と不対電子間相互作用を併用することで、熱揺らぎを抑えた堅牢な多孔性配位高分子(MOF)の骨格中にπ共役コアの無限積層構造を固定化する。さらに、構成する金属イオンや配位子のサイズを極小化することで分子間距離を極限まで縮め、高密度共役をバルク結晶全体で実現する。また、ナノサイズの空隙中への分子・イオンの脱挿入によるキャリアドーピングにより高密度共役状態を自在に制御し、既存の有機結晶では実現できなかった新しい電子状態や電子物性の開拓を行い、高密度共役の基礎学理の解明に繋げる。
本研究では、π共役分子の無限積層構造とナノ空隙を併せ持つ多孔性分子導体 (PMC) を基盤として、π積層分子間距離を極限まで縮め、バルク結晶として高密度共役を実現することを目指した。そのために、以下の2つの課題に取り組んだ。【課題1】配位結合で積層分子間距離を高度に制御した高堅牢性PMCの開発配位高分子骨格同士の相互作用点を増やして三次元骨格にし、2つの骨格が相互貫入することで、熱揺らぎを抑えた堅牢なPMCの開発を行った。トリアゾイル基を有するNDI誘導体と金属ハライド鎖からなるPMCや、柱状配位子として硫酸イオンを含むPMCの合成に成功し、前者では金属イオンやハライドを様々に置換することで、分子配列構造を変えずにπ積層距離を3.28~3.55Åの範囲で変えることに成功した。一方、後者についてはより堅牢性が高く、高温真空下でナノ細孔中の溶媒分子を脱離させても結晶構造が劣化しないことが明らかとなった。また、高密度共役の実現を目指した異なる分子設計として、エラグ酸を配位子とした配位高分子を合成し、二量化した積層構造ではあるが、最小二乗平面間距離を3.07Åまで短縮させることにも成功した。【課題2】PMCのナノ空隙を利用したキャリアドーピングによる電子物性開拓コバルトアセチルアセトナト(acac)錯体を金属部位に含むPMCでは、ナノ空隙中のacac配位子間に格納される対カチオンの数がイオンの大きさによって制御しうることが明らかとなり、キャリアドーピング量の制御への足掛かりを作ることができた。また、課題1で合成した堅牢なPMCを酸化性ガスと反応させることで、酸化還元による化学ドーピングに取り組んだ。実際に反応によって伝導率が数ケタ減少し、ESRスペクトルでもスピン量が減少していることが示唆された。したがって、今後はガス量の調整等によってドーピング量の制御が期待される。
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
ほぼ計画した通り、配位結合で積層分子間距離を制御した高堅牢性PMCの合成に成功した。当初はCd-Cl系以外では単結晶を得ることが困難であったが、年度終盤でFe-Cl系などでも単結晶が得られる合成法を見出したので、今後は他の金属原料にもこの手法を適用することで、より短いπ積層距離を有するPMCを迅速に合成し構造解析することが期待できる。Feイオンをはじめ、種々の3d金属イオンを導入することで、電気化学触媒としての利用も可能になると期待される。また、硫酸イオンを柱状配位子とした高堅牢性PMCは、当初は他に2種類の多型が得られてしまい、単離が困難であったが、合成条件を様々に工夫することで単相で得ることに成功した。したがって今後は溶液や気相中での酸化還元反応によるキャリアドーピングなど、バルクの電子物性研究の進展が期待できる。堅牢なPMCと酸化性ガスとの反応については、センシング分野で研究成果を多く挙げているアメリカの研究室に高密度共役ジュニアフェローに採択された学生が海外留学し、共同研究として取り組んでいる。興味深い成果が多く出始めており、これについては当初の想定以上に研究が進展していると言える。
多様な配位子を用いたPMCの合成を進めるため、π共役骨格のバリエーションを増やしていきたい。特に、特異な酸化還元特性をもつπ共役分子を合成している有機化学者との共同研究は積極的に進める予定である。すでに合成に成功した堅牢なPMC群については、構成要素の最適化(ダウンサイジング)によってπ積層距離の極小化を進め、高密度共役の実現を目指す。また、ナノ細孔中の溶媒分子を脱離させ、テトラチアフルバレン(TTF)やテトラシアノキノジメタン(TCNQ)等のレドックス活性な分子の導入による酸化還元や、電気二重層を利用した電気化学ドーピングの適用も行いたい。さらに、エラグ酸だけでなくカテコール部位を有する様々な有機配位子を用いた配位高分子を合成し、特にランタノイドイオンの導入によってπ積層距離の短縮化を図る予定である。ガスによるドーピングについては大きな電気伝導率の変化が期待されることから、電極に貼り付けたPMCの単一結晶を用いた省エネルギーかつ高感度なガスセンサーへの展開も行う予定である。さらに、反応性の異なる複数のPMCを用いたアレイ構造を構築することで、呼気中に含まれる有機蒸気のような複数種の分子の混合気体のセンシングの可能性も追究したい。
All 2024 2023
All Journal Article (1 results) (of which Peer Reviewed: 1 results, Open Access: 1 results) Presentation (8 results) (of which Int'l Joint Research: 4 results, Invited: 6 results)
Chemistry Letters
Volume: 52 Issue: 6 Pages: 488-491
10.1246/cl.230175