Publicly Offered Research
Grant-in-Aid for Transformative Research Areas (A)
本研究では、電気伝導層「内」だけでなく伝導層「間」にも電子的相互作用を有する従来にない分子性固体の開発に取り組む。独自に設計した双性イオン型中性ラジカルを用いることで、長年研究されてきた (BEDT-TTF)2X 型の「一~二次元電子系」電荷移動錯体を超える、より高次元で高密度、そして強靭な共役電子系を生み出す。未踏の電子状態、物性・機能を創出し、分子性物質科学・強相関電子系の新領域を切り拓く。
研究課題名である「双性イオン型中性ラジカルを基盤とした高次元・高密度共役強相関電子系の創出」を目指し、申請書に「令和5年度の研究計画」として記載した『電気伝導層「内・間」に電子的相互作用を有する分子性固体の開発』に取り組んだ。具体的には、「高密度化」という観点を基に、当該中性ラジカルが有する置換基のサイズや形状についての検討、そして結晶中に含まれる結晶溶媒の種類やサイズについての検討を行い、それぞれ1種類ずつ計2種類の新規結晶を得ることに成功した。結晶構造解析ならびに電気伝導度測定、そして理論計算の結果から、いずれの結晶においても、中性ラジカルが形成する電気伝導層の「内・間」に電子的相互作用が存在することが明らかとなり、従来の電荷移動錯体とは質的に異なる系を創出することができたといえる。さらに、いずれの結晶においても、母物質に比べ、より密接な中性ラジカル間の近接・相互作用が実現していることが明らかとなった。その結果として、母物質とは質的に異なる電子状態・電荷分布、そして電気伝導挙動を見いだすことができた。特に、上記した結晶溶媒に関する検討において、溶媒分子のサイズをわずかに小さくした結果、室温では母体と同形の結晶構造を与えたのに対し、低温にすると母体には存在しない新たな相に転移することが明らかとなった。伝導層内・間の電子的相互作用のバランスが絶妙に異なることで、大きく異なる電子状態・相が発現したと考えられ、大変興味深い。
1: Research has progressed more than it was originally planned.
上述したように、当初計画した課題を達成し、予想していなかった新たな電子状態、相転移現象を見いだすことに成功したため。さらに、本領域全体の目的である高密度化に関して、本研究者が基盤とする系における分子設計・物質開発指針をおおむね確立することができたといえるため。
開発に成功した新規結晶の磁気的性質も調査し、伝導層内・間において電荷とスピン自由度がどのように連動し、結晶全体の電子構造・物性が決定づけられているかについて、中性ラジカルの分子構造、分子配列・結晶構造との相関も含め総合的に考察する。さらに、強相関電子系の高次元化の観点で設計した新規双性イオン型中性ラジカルの合成検討も並行して行う。
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Chem.Lett.
Volume: 52 Issue: 1 Pages: 25-28
10.1246/cl.220446
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