Publicly Offered Research
Grant-in-Aid for Transformative Research Areas (A)
神経可塑性を顕著に示す臨界期は、生後の発達期の或る限られた時期に現れ、この臨界期を終える閉鎖期に見られるシナプス刈り取りに関わる作用としてNogo受容体-1を介した作用が挙げられる。神経回路形成因子LOTUSは内在性のNgR1拮抗物質として機能する。LOTUS過剰発現マウスは老齢化しても野生型マウスでは減衰する海馬依存性の記憶・学習能力が若年マウスのレベルに維持されている。そこで、本研究では、遺伝子導入法などによって老齢化マウスの海馬で人為的にLOTUSを過剰発現させ、老齢化脳において臨界期を再開させることを試み、LOTUSの分子特性を利用した老齢期における神経可塑性誘導法を確立する。
神経可塑性を顕著に示す臨界期は、生後の発達期の或る限られた時期に現れシナプス成熟過程に深く関係する。この臨界期を終える閉鎖期には過剰に形成されたシナプスを除去する刈り取りが行われ、Nogo受容体-1(Nogo receptor-1:NgR1)を介した作用が関与する。NgR1を介する作用は、成熟脳においてはシナプス形成や経験依存的なシナプス可塑性に対して負の作用を示すことが知られているが、我々が発見した神経回路形成因子LOTUSは内在性のNgR1拮抗物質(アンタゴニスト)として機能するため、NgR1作用を抑制してシナプス形成を促進することが明らかになった。しかし、海馬におけるLOTUSの発現量は加齢によって徐々に低下し、それに伴って海馬依存性の記憶・学習能力が低下することも明らかになった。それに反してLOTUS過剰発現マウスは老齢化しても海馬のLOTUS発現量は若年マウスのレベルを維持していた。そこで、本研究では、遺伝子導入法などによって老齢化マウスの海馬において人為的にLOTUSを過剰発現させて臨界期を再開させて神経可塑性を誘導することを試みた。本年度では、まず最初に若年マウス(8週齢)においてLOTUS遺伝子を搭載したアデノ随伴ウイルス(AAV-LOTUS)をステレオタキシックに海馬に局所注入してLOTUSの発現を確認したところ、海馬に限局したLOTUSの過剰発現が確認でき、外来性にLOTUSの発現上昇を引き起こす方法を確立することができた。この処置によって若年マウスにおける神経可塑性誘導が可能かどうかについて社会性認知機能テストを行ったところ、記憶機能が減弱していないこの週齢のマウスにおいても記憶機能の亢進が認められ、LOTUSの過剰発現マウスで示す記憶亢進と同様の状態を誘導することが確認できた。今後は老齢マウスにおいて同様の処置を行って神経可塑性の誘導を試みる。
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
本年度では、まず最初に若年マウス(8週齢)においてLOTUS遺伝子を搭載したアデノ随伴ウイルス(AAV-LOTUS)をステレオタキシックに海馬に局所注入してLOTUSの発現を確認したところ、海馬に限局したLOTUSの過剰発現が確認でき、外来性にLOTUSの発現上昇を引き起こす方法を確立することができた。この処置によって若年マウスにおける神経可塑性誘導が可能かどうかについて社会性認知機能テストを行ったところ、記憶機能が減弱していないこの週齢のマウスにおいても記憶機能の亢進が認められ、LOTUSの過剰発現マウスで示す記憶亢進と同様の状態を誘導することが確認できた。方法論の確立とその効果の検証を行うことができ、研究は順調に進捗している。
本研究では、遺伝子導入法などによって老齢化マウスの海馬において人為的にLOTUSを過剰発現させて臨界期を再開させて神経可塑性を誘導することを試みる。今後は老齢マウスにおいて、LOTUS遺伝子を搭載したアデノ随伴ウイルス(AAV-LOTUS)をステレオタキシックに海馬に局所注入して海馬に限局したLOTUSの過剰発現を誘導し、老齢マウスにおける神経可塑性の誘導について社会的認知機能テストを行なって検証する予定である。