Publicly Offered Research
Grant-in-Aid for Transformative Research Areas (A)
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は病因解明や治療法開発が強く望まれる進行性の神経変性疾患である。発症には低複雑性の天然変性領域を有するRNA結合タンパク質の不制御が一因と考えられ、液液相分離(LLPS)で形成されるRNA顆粒を介したmRNA輸送と局所翻訳に影響を及ぼす。mRNA認識は極めて選択的で、非標準型な核酸構造であるグアニン四重鎖が共通の結合シグナルとなっている。本研究は、異なる位相空間の存在と分子動体に注目し、グアニン四重鎖と結合タンパク質本来の分子制御及び、構造・制御破綻に起因するALS発症機序解明を目的としている。
筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis; ALS)は病因解明や治療法開発が強く望まれる致死性の神経変性疾患である。病因遺伝子産物中最多は低複雑領域を持つRNA結合タンパク質で、液液相分離(LLPS)で形成されるRNA顆粒を介してmRNA輸送と局所翻訳に寄与している。mRNA認識は極めて選択的で、非標準型な核酸構造・グアニン四重鎖が共通の結合シグナルとなっている。これまでの研究で、ALS関連RNA結合タンパク質が相転移の際、グアニン四重鎖との結合で可逆的に低複雑領域のフォールディング変化が生じる現象を発見。異なる位相空間の分子動体に注目するに至り、 ①低複雑領域 ②グアニン四重鎖 ③ジスルフィド結合 の3要素を解析し、タンパク質・RNAのフォールディング制御破綻に起因するALS発症機序解明を目的とする。本研究では、グアニン四重鎖RNA依存的に液液相分離を制御する細胞内因子の捜索を実施し、既に2つの候補を同定している。TDP-43(TAR DNA-binding protein of 43 kDa)やFUS(fused in sarcoma)の相分離機能に直接作用するタンパク質因子の報告はこれまでに例が無く、RNA顆粒の形成や凝集への影響が明らかになれば、現在不明の神経変性疾患発症機序の解明に直結する。加えて、グアニン四重鎖RNAのリスク要因が位相変化へ及ぼす影響を、金属イオンや酸化型グアニン(8OG)で変化するRNA構造を指標に測定した。
1: Research has progressed more than it was originally planned.
グアニン四重鎖RNA依存的液液相分離の分子動態を制御する細胞内因子の生化学的スクリーニングの結果、PDIA1(protein disulfide isomerase A1)及びPDIA3(protein disulfide isomerase A3)の同定に成功した。注目すべきことに、これらをコードする遺伝子は家族性ALSの責任遺伝子であり、細胞内でTDP-43及びFUSとの共局在も報告されている。PDIA1及びPDIA3は細胞内でタンパク質の分子内ジスルフィド結合を触媒する酵素として知られる。両タンパク質はグアニン四重鎖依存的な液液相分離によるRNA顆粒の形成及びその維持に何らかの影響を持つと仮定し、詳細な解析を開始した。既に、それぞれの家族性ALS患者で報告されているアミノ酸変異を有するタンパク質の発現と精製に成功しており、RNA顆粒形成システムの破綻に起因するALSの発症機序解明を目的に、in vitro及び培養細胞での検討を進めている。また、グアニン四重鎖RNAのリスク要因が位相変化へ及ぼす影響を捜索する過程で、グアニンカルテットの形成を阻害する金属の同位体効果を発見。原子の化学的性質は核外電子で決められるが、核種によっても特性が異なる為、軽いアルカリ金属元素の同位体比はグアニン四重鎖RNAの構造変化を介して位相変化にも影響するとの新しい発見に繋がった。
これまでの研究で、PDIA1及びPDIA3はTDP-43やFUSの分子内ジスルフィド結合を触媒し、グアニン四重鎖依存的な液液相分離を制御する新規分子機構を発見した。既に、TDP-43及びFUSの各システイン残基を置換した点突然変異タンパク質のシリーズを発現・精製し、液液相分離の再構成系を用いて標的システイン残基を同定している。今後、液液相分離に影響するシステインの点突然変異を持つ遺伝子をPiggyBacベクターシステムによりiPS細胞201B7株に導入し、運動ニューロンへの分化誘導を試みる。得られた運動ニューロン内でのタンパク質局在を蛍光標識免疫染色で野生と比較し、詳細な観察を行う。グアニン四重鎖RNAのリスク要因となりうる金属の同位体効果については、ゲルシフトアッセイや円偏光二色性(CD)解析、液液相分離の再構成系を用いた解析を終えた。現在、マウスを用いた飲水投与試験を実施しており、生体へ及ぼす影響をワイヤーハングテスト及びロータロッドテストなどの行動解析で確認すると共に、組織解析も行う。グアニン四重鎖RNA及び結合タンパク質のコンフォメーション変化を基軸とした位相変化の全貌を明らかにし、ALS発症に関わる新秩序の解明と再定義が期待できる。
All 2024 2023
All Journal Article (3 results) (of which Int'l Joint Research: 1 results, Peer Reviewed: 2 results, Open Access: 2 results) Presentation (2 results)
月刊「細胞」
Volume: 56 Pages: 30-32
Scientific Reports
Volume: 13 Issue: 1 Pages: 1-11
10.1038/s41598-023-33172-5
eLife
Volume: 12 Pages: 1-31
10.7554/elife.84338