Publicly Offered Research
Grant-in-Aid for Transformative Research Areas (A)
生物の体表面を覆うapical細胞外マトリクス(aECM)は、機能に応じた様々な微細構造をとる。申請者はショウジョウバエ嗅覚器官表面のaECM、クチクラ構造に着目した。このクチクラにはナノスケールの微細孔が多数作られ、それにより匂い分子の検出が可能になる。この形態形成で重要な役割を果たす二種類のaECM構成分子は既に同定しており、細胞表面に内外二層のaECMを形成することを明らかにした。本研究では、各層の性質を実験的に調べ、数理モデル化と構成的手法により、微細孔のあるクチクラの形成機構を明らかにする。未だ理解が進んでいない、aECM構成分子の自己組織化を主とする形態形成機構の一端を解明する。
動物の体表を覆う細胞外マトリクス(ECM)は、生体を外界から守り、かつ感覚受容・身体運動などを可能にするため、多様な構造をとる。しかし、細胞外に分泌されたECM構成分子が構造化される仕組みは不明である。本研究は、ショウジョウバエ嗅覚毛を覆う、数十nmの微細孔を多数もつクチクラ構造に着目した。ショウジョウバエ表皮において、クチクラ最表層のenvelopeと呼ばれる約20nm厚の“ナノ薄膜”が最初に作られ、このパターンに従い下の二層 epicuticle, procuticleが作られると示唆された。表皮や感覚器でない小刺毛など標準的なナノ薄膜は平らであるのに対し、嗅覚毛の型となる細胞突起上のナノ薄膜は湾曲した波状のパターンを示し、窪みの部分は後に取り除かれ、成虫の匂い分子受容に必要な微細孔となる。このようにナノ薄膜のパターンが最終的な体表構造を決定するため、ナノ薄膜の形成機構は重要な過程である。本研究では、ECM構成分子として知られるZona Pellucida (ZP) domainタンパク質ファミリーのうち、ナノ薄膜形成に関わるとして着目した二種類について機能解析を進め、ナノ薄膜の形成機構を明らかにすること、そしてナノ薄膜形成期に発現量が高いと考えられる他のZPタンパク質七種類についてもその局在・機能を明らかにすることを目的とした。結果として、新たに三種類のZPタンパク質が嗅覚毛クチクラの形成において働くことがわかった。合わせて五種類のZPタンパク質を含むECMを様々に操作すると、クチクラ形成初期のナノ薄膜及び成虫の微細孔の形態に異常が見られた。これらの結果をもとに、嗅覚毛の細胞突起を包み込むクチクラ形成初期のECMが微細孔をもつクチクラの形態形成に作用する仕組みについて仮説をたてた。この仮説をもとにさらに理解を深めるため、追加実験を行い、モデル化を進める。
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
ショウジョウバエ外骨格クチクラの形成初期、ナノ薄膜の形成期に高い発現レベルを示すと考えられる七種類のZPタンパク質の局在観察に取り組んだ。これにより、本研究以前から着目していた二種類に加え、新たに三種類のZPタンパク質がクチクラ形成初期に嗅覚毛の細胞突起上にECMを形成していることを見出した。五種類のZPタンパク質は、分泌のタイミングの違いなどにより、少なくとも三層の層構造を作ることがわかった。次に、これらのZPタンパク質がどのようにナノ薄膜の形成・パターニングに関わるかを明らかにするため、各ZPタンパク質を単独または組み合わせて発現量を操作するなどしてクチクラ形成初期のECMを改変し、ナノ薄膜及び成虫の微細孔の形態を観察した。計画時にはナノ薄膜の構成分子がZPタンパク質である可能性があると考えていたが、実験結果からナノ薄膜は別の分子であると考えられ、「嗅覚毛のECMが細胞突起に与える機械的制御によってナノ薄膜が波状にパターニングされる」という仮説をたてた。この仮説の検証のため、ECMが細胞突起に及ぼす力の測定に着手した。また、培養細胞で五種類のZPタンパク質を組み合わせて強制発現させ細胞外の構造を観察することにより、ZPタンパク質間のECM形成に関わる性質が明らかになってきた。生体内での局在パターンと似た特徴を示すことから、ZPタンパク質そのものの性質がECMの構造を決定する大きな要因であると考えられる。これらの結果は、クチクラ形成機構の理解、さらには人工的再現に向けて有用な知見である。
現在の「嗅覚毛のECMが細胞突起に与える機械的制御によってナノ薄膜が波状にパターニングされる」という仮説の検証に向け、ECMが細胞突起に及ぼす力の観察・測定を行う必要がある。生体内での観察・測定には、二光子顕微鏡を用いたレーザーアブレーション実験を計画し、すでに着手した。ECMを部分的に壊すことにより細胞の形態に変化が見られれば、ECMが細胞に与える力を見積もることができる。一方で、嗅覚毛は長さ10μm、太さ1μmほどの小さな構造であり、生きた状態で信頼できる測定結果を得るのは難しいことも予想される。このため、バックアップとして培養細胞を用いた実験も行う。五種類のZPタンパク質のうち少なくとも二種類は、培養細胞に発現させた際に形成したECMが培養細胞の動きを制限する様子を示した。つまり生体内と同様に、ECMが細胞に力を及ぼしている。培養細胞上のECMにおける測定は比較的行いやすいと期待されるため、細胞に与える力の測定や、ECMの硬さの測定などを行う。これらの結果をもとに数理モデル構築を進める。
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