Publicly Offered Research
Grant-in-Aid for Transformative Research Areas (A)
本研究の目的は、ヒトに幽玄を知覚させる謡曲特有の物理特性を明らかにすることである。世阿弥は「能では幽玄であることが第一に大事である」と述べている。「日本的な美である幽玄を知覚させる物理特徴は何であるか」について、謡曲に含まれるヒトの発声だけに着目するのではなく、舞台空間および能面によるアンビエントの変化にも着目する。本研究では、スペクトル変調成分(声帯および声道の動きと対応)、および時間変調成分(アンビエントの変化に対応)を同時に分析できるスペクトル・時間変調情報に着目する。この情報を変化させたときに幽玄の知覚がどのように変わるかを知覚実験によって調べる。
本年度は、実施計画どおりに防音室での謡曲の収録を行った。また、収録した謡曲をspectro-temporal modulation (STM)分析を行った。STM 分析では、謡曲の声帯由来および声道由来の変調情報と振幅変調情報を得ることができる。本分析の結果、発話者の熟練度によって STM 情報が異なることが明らかとなった。定量的な分析では、時間変調情報は、熟練者ほど特定の変調周波数に成分が集中する傾向があることが分かった。謡曲の収録は、防音室に加えて、様々な能舞台環境や様々な能面をかけた状態で行った。これら環境の違いによる謡曲を STM 分析した。能舞台の違いによる謡曲への影響はまだ検討段階であるが、能面の違いによって STM 情報のうち時間変調情報が明確に変わることが分かった。この時間変調情報の変化には、能面の開口の有無や開口の角度、能面の分厚さなどが影響していると考えられる。さらに、本年度では、謡曲に対する心理評価を聴取実験によって行った。これによって、謡曲を普段聞かないヒトであっても、謡曲の違いを聴き分けることができることが明らかになった。また、心理評価の結果と STM 情報とを回帰分析によって統合的に捉えることができることを予備的検討として確認することができた。本年度の知見を基に、本研究の目的である幽玄に関わる音響特徴がどのようなものであるかを STM 情報に基づいて示すことが今後の課題である。
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
実施計画に沿って、様々な環境および異なる能面での謡曲の収録を実施できた。さらに、spectro-temporal modulation (STM)分析による分析も行い、発話者や発話環境によるSTM情報の違いを示すことができた。また、幽玄についての謡曲の聴覚心理評価手法や、その評価結果とSTM情報との統合手法についても予備検討を完了することができた。そのため、「おおむね順調に進展している」と評価した。
聴取者が幽玄を感じる謡曲の音響特徴(STM情報)を明らかにすることが今後の課題である。さらに、STM情報に対するフィルタリングによって幽玄をコントロールできるかどうかを検討することで、謡曲における幽玄の表現のエンリッチメント化についても目指す。これらを実現するために、幽玄の心理的評価結果とSTM情報とを統合する分析手法を確立する。STM情報のフィルタリング手法については、先行研究を基に、STM情報に適応可能かどうかを示すために、いくつかの手法を試みる。
All 2024 2023
All Journal Article (1 results) (of which Peer Reviewed: 1 results, Open Access: 1 results) Presentation (2 results)
Applied Acoustics
Volume: 218 Pages: 109914-109914
10.1016/j.apacoust.2024.109914