Publicly Offered Research
Grant-in-Aid for Transformative Research Areas (A)
生物は有機分子が集まることで構成されており,これを人工的に構築することは有機化学者の究極の目標であると言える.そして近年では,天然の生体分子にも匹敵するほどの複雑な構造を有する人工分子の合成が可能になってきた.しかし一方で,生物のように外部から栄養を取り込んで生きながらえるといったような,「生物らしさ」を人工分子で実現することは未だに困難を極める.そこで本研究では,「人工細胞に栄養を供給するための分子ツール」として,細胞膜を介した物質輸送体を新たに合成し,生物らしさを人工系で実現するための足掛かりを築くことを目指す.
本年度は膜間ATP輸送体の合成を主に行った。具体的には,アニオン認識部位として複数のイミダゾリウム部位を導入したオリゴフェニレンエチニレン骨格に対してオクタエチレングリコール鎖を導入した交互両親媒性分子を合成した。合成した分子は核磁気共鳴スペクトルおよび高分解能質量分析によって構造の同定を行っている。続いて,合成した交互両親媒性分子の溶液中におけるアニオン認識能を検証した。その結果,ATPの添加に伴い膜間ATP輸送体に由来する発光強度が変化する様子が観察された。これは本研究で合成した交互両親媒性分子が当初の期待通りにATPと相互作用したことを示唆している。さらに,合成した交互両親媒性分子の細胞膜内部への局在化能を検証した。蛍光顕微鏡観察の結果,リン脂質からなるリポソームの縁に沿って膜間ATP輸送体に由来すると思われる発光が観察されたことから,合成した交互両親媒性分子は期待通りに細胞膜の疎水性領域に局在化していると考えられる。加えて,合成した交互両親媒性分子の膜間ATP輸送能を検証するための前段階として,リン酸イオンの透過能を検証した。リン酸イオンの存在下,リン脂質からなるリポソームの内部にpH応答性蛍光色素であるHPTSを内包させ,合成した交互両親媒性分子を添加したところ,HPTSに由来する発光強度が有意に変化する様子が観察された。これは本研究で合成した交互両親媒性分子が膜を介してリン酸イオンを透過したことを示唆しており,今後の研究を推進する上で非常に期待が持てる結果を得ることができた。
1: Research has progressed more than it was originally planned.
アニオン認識部位を有する交互両親媒性分子の合成を当初の計画通りに達成することができただけでなく,細胞膜への局在化に加えて,膜を介したリン酸イオンの透過も実現することができた。よって,本研究課題は当初の計画以上に進展していると判断した。
今後は,すでに合成した交互両親媒性分子を用いた膜間ATP輸送の実現に向けて,そのアッセイ系を構築するとともにATP輸送に最適な実験条件を模索していく予定である。また,リン脂質からなるリポソームの内部にATPに応答して自己集合する分子を内包させることで,膜間ATP輸送をトリガーとした動的現象の制御にも挑む予定である。
All 2024 2023 Other
All Int'l Joint Research (1 results) Journal Article (5 results) (of which Int'l Joint Research: 2 results, Peer Reviewed: 5 results) Presentation (6 results) (of which Int'l Joint Research: 2 results, Invited: 3 results)
Langmuir
Volume: 40 Issue: 6 Pages: 2809-2814
10.1021/acs.langmuir.3c03665
Nanoscale
Volume: 16 Issue: 13 Pages: 6442-6448
10.1039/d3nr06626f
Polymer Journal
Volume: 55 Issue: 11 Pages: 1225-1229
10.1038/s41428-023-00812-6
Journal of the American Chemical Society
Volume: 145 Issue: 24 Pages: 12992-12997
10.1021/jacs.3c02285
Science Advances
Volume: 9 Issue: 45
10.1126/sciadv.adf7997