Publicly Offered Research
Grant-in-Aid for Transformative Research Areas (A)
近年、液-液相分離によってコアセルベートを形成するペプチド(self-coacervating peptide; SCP)が注目されている。最近、筆者らは、このSCPの中央に光分解性保護基の付いたアミノ酸残基を挿入したケージドSCPが、水溶液中でコアセルベートを形成すること、光照射により脱保護されること、脱保護された状態ではコアセルベートを形成しないこと、などを見いだした。本研究では、このコアセルベート(ケージドコアセルベート)を人工細胞の部品や、分子供給ツールとして利用できるかを調べる。
本研究では、光応答的なコアセルベート(ケージドコアセルベート)を形成するケージドSCPを設計・作製し、人工細胞の部品や、分子供給ツールとして利用できるかを検討した。より具体的には、ケージドコアセルベートが光応答する人工非膜型オルガネラ(人工細胞の部品)として機能しうるか、細胞や人工細胞内に多様な分子を導入して光依存的にリリースするキャリアとして利用できるかを知るため、以下の検討を行った。1)ケージドコアセルベートによるタンパク質・核酸・薬剤等の内包:ケージドSCPは、ペプチド部分を固相合成法により作り、そのLys残基側鎖にケージ基を付加することで合成した。ケージドSCPを適当量のbuffer・塩と混合することで、コアセルベートを形成させることに成功した。ケージドコアセルベートへEGFP、siRNA、機能性ペプチドなどの搭載を試み、程度の差はあるものの、いずれも搭載が可能であることが判明し、搭載できる基質のバリエーションの広さが示された。2)各種物質の細胞内導入と光応答的なリリース:ケージドSCPにケージ基の励起光をあて、その脱保護が可能であることを確認した。ケージの付いていないSCPはコアセルベートを形成しなかったので、光脱保護が可能であれば原理的には、ケージドコアセルベートは光により分散すると思ったが、実際には完全に分散はしなかった。ただし、光を当てるとケージドコアセルベートから外れたケージ基がリリースされることや、内包物の一部がリリースされることが観測された。ケージドコアセルベートの細胞内導入についてはわずかながら観測できた。3)リポソーム内導入:細胞サイズのリポソーム(人工モデル細胞)を作り、その中に光応答的な人工非膜型オルガネラとしてのケージドコアセルベートの封入を試みた。コアセルベート含有リポソームの形成確率が低いため今後も条件検討の必要がある。
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
2年の研究計画の1年目として、ケージドコアセルベート系の構築が達成され、さらに、このコアセルベートへの核酸やタンパク質・ペプチドの搭載法も確立された。また、光を当てたときのコアセルベート構成要素の分散や細胞内、人工細胞内導入に関する検討も進めた。これらのことから、おおむね順調に進展していると判断した。
当初の計画通りに、下記の検討を進める。1. ケージドSCP:K-SCPの調合比率や、ケージドSCPの配列の検討:積み荷の内包されやすさは、コアセルベート作製時のケージドSCPと(ケージの外れた)K-SCPの調合比率を変えることで変わると思われる。どのような性質の積み荷は、どのような調合比率の時に内包されやすいのかを調べる。また、この調合比率による細胞膜透過への影響や、光照射時の積み荷リリースへの影響も調べる。また、各積み荷の内包・膜透過・積み荷のリリースに適した「ケージドSCPの配列」の検討も行う。特に、SCP末端へのアミノ酸(疎水性、または、カチオン性、アニオン性)の追加と、中央のケージ基付加部位の隣のアミノ酸変異の効果を調べる。積み荷の性質に応じたSCPの変異を入れることで、内包効率が高まるかもしれない。また、膜透過効率の上昇や、積み荷放出の光制御がしやすくなることを期待して、変異の効果を検討する。2. ルシフェラーゼの光応答的なリリースに基づく細胞間シグナル伝達:培養細胞にルシフェラーゼをケージドコアセルベートに内包させて投与するとともに、ルシフェラーゼ基質を投与する。基質の投与は、①ルシフェラーゼと別のコアセルベートに内包させる形で投与、②細胞に直接投与、の2つの方法を検討する。投与後、複数の細胞が並んでいる場所において1つの細胞をめがけて共焦点レーザー蛍光顕微鏡のレーザー光で光照射する。この後に、ルシフェラーゼ発光のタイムラプスイメージングを行う。照射した細胞からルシフェラーゼの発光が見えたのち、少し遅れて隣の細胞から発光が観測されたら、ルシフェラーゼの光による細胞間シグナル伝達が行われたと考えることができる。
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https://www.okayama-u.ac.jp/user/ohtsuki/study.htm