Publicly Offered Research
Grant-in-Aid for Transformative Research Areas (A)
近年、複数種の分子を一つのシステムに統合し、分子サイズのデバイスを設計・構築することが可能になっている。これらの分子デバイスを相互接続し、より複雑なネットワークを構築することで、高度な演算処理を実行するケミカルAIを製造できる可能性がある。本研究では、ケミカルAIを構成する分子ユニットの開発に向け、その部品であるアクチン細胞骨格の自己組織化を制御する分子ツールを開発する。合成した分子ツールをアクチンとともに脂質カプセル(リポソーム)に内封することで、DNAや光などの外部信号により形態制御が可能な人工細胞を合成する。
細胞骨格(アクチン繊維、微小管)は、細胞の形状、動き、細胞内空間の組織化を制御する分子スケールの動力システムである。このシステムは、マイクロデバイスなどの動力システムとしての応用可能性を有し、ナノテクノロジー分野において長らく研究の対象とされてきた。他方、細胞内での細胞骨格の挙動は、多種多様な関連タンパク質によって制御される。本研究は、DNAナノテクノロジーや無細胞タンパク合成系を基盤としたタンパク質工学を核として、外部から制御可能な細胞骨格関連タンパク質(分子ツール)の合成を行う。これらのカスタマイズされた細胞骨格関連タンパク質と細胞骨格を脂質カプセルであるリポソームに内封し、その動的挙動を制御することで、リポソーム内の細胞骨格の自己組織化や機能を制御し、リポソームの極性化や変形を誘発する。本研究が達成されることにより、当該分子サイバネティクス領域において、ケミカルAIを構成するアクチュエーターユニットの動作制御を実現する基盤技術を提供できると期待される。本年度は、アクチンの重合促進や束化を制御する関連タンパク質を無細胞合成し、これらのタンパク質をアクチン単量体と共にリポソームに封入することにより、リポソーム内で磁気ビーズを一方向に動かす動力系を開発した。また、光によって動力系との接続をOn/Off制御可能な微小管/アクチン結合型キネシンモータータンパク質を開発し、微小管とアクチンの動的な会合解離を制御する技術を実現した。これらの分子ツールを利用して、細胞骨格の自己組織化を制御し、ケミカルAIの分子ユニットの動力システムを構築することができると期待される。次年度は、これらの細胞骨格関連タンパク質を分子ユニットに実装し、外部信号によって分子ユニットの形状や極性を制御することに挑戦する。
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
本年度は、無細胞タンパク質合成系を利用して、アクチン細胞骨格を架橋するFascin及びアクチンの伸長、核形成を促進するmDia1を試験管内で合成した。免疫学的手法を駆使し、mDia1を磁気ビーズに固定し、アクチン単量体とFascinをリポソームに共に内封した。これらは、細胞の前端に形成されるフィロポディアと呼ばれる突起状構造体の構成要素である。当初、リポソームに同様の突起状構造が形成されることが予想されたが、アクチン束の剛直性が不十分であったため、突起は形成されず、代わりにリポソームの膜裏でアクチン繊維の重合によって磁気ビーズが極性運動を示すことが観察された。この結果は、本システムは、リポソーム内で物質を動かす動力系として利用できる可能性を示唆している。さらに、オプトジェネティクスの技術を応用し、アクチン繊維と微小管を可逆的に結合・解離することが可能なキネシンモータータンパク質を開発した。このキネシンは、光応答性Phototropin LOV2とアクチン結合ペプチドZdk1を有し、青色光の照射によりLOV2とZdk1が解離し、結果的に微小管とアクチン繊維の会合解離を可逆的に制御することが可能である。リポソーム内部で微小管の重合を行うと、神経軸索様の突起がリポソームに形成され、開発した光応答性キネシンを用いることにより、アクチン繊維ネットワークを基板として、光照射による微小管・アクチンの動力系のOn/Off制御が可能になると期待される。また、光応答性キネシンには尾部末端にDNAなどのプログラミング可能な分子を結合させることができ、外部からの相補的なDNAを信号として加えることにより、アクチン繊維の束化および剛直化を制御し、これによりDNAコンピューティングとの組合せにより、より複雑な分子ユニットの動力系の操作を実現する可能性が開かれた。
本年度は、タンパク質工学およびDNAナノテクノロジーを駆使し、細胞骨格関連タンパク質のカスタマイズを進め、ケミカルAIのアクチュエーターユニットを制御する分子ツールの開発及びその動作確認を行った。次年度には、これらの分子ツールを組み合わせ、細胞骨格の自己組織化および運動挙動を制御し、分子ユニットの動力系を外部から操作することを試みる。当初計画においては、アクチン細胞骨格を主動力系とし、分子ユニットの変形や神経軸索様突起形成に応用することが予定されていた。しかし、リポソーム内での微小管の重合実験結果から、剛直性に優れる微小管がアクチン繊維よりもリポソームの変形に適していることが明らかになった。それに対し、アクチン繊維はリポソームの変形には不向きであるものの、豊富な分子ツールを活用することで、微小管の動的挙動を制御するための要素として利用することが可能である。特に、アクチン繊維は束化することによりネットワークの機械的特性を制御することが可能である。次年度は、アクチン繊維ネットワークの機械的特性をDNA修飾したZdk1アクチン結合ペプチドとDNAシグナルで制御し、キネシンを結合させたアクチンネットワークを足場として微小管を動かすことで、微小管の運動挙動への影響を評価する。このアプローチにより、微小管によって形成される分子ユニットの軸索様突起の動きや変形を光やDNAによって制御する技術の基盤が構築されることが期待される。
All 2024 2023
All Journal Article (1 results) (of which Int'l Joint Research: 1 results, Peer Reviewed: 1 results, Open Access: 1 results) Presentation (7 results) (of which Invited: 5 results)
Nature Communications
Volume: 14 Issue: 1 Pages: 6987-6987
10.1038/s41467-023-42487-w