Publicly Offered Research
Grant-in-Aid for Transformative Research Areas (A)
タンパク質分子モーターに触発され開発されたDNA人工分子モーターは設計の自由度が高く、DNAの塩基配列や長さを変えることで足場との結合の親和性や選択性を制御できる。しかし、先行研究で報告されているDNA人工分子モーターの運動速度は数nm/s程度であり、10-1000 nm/sで動くタンパク質分子モーターに比べて劣る。本研究では、DNAナノ粒子モーターの律速過程を1粒子追跡とシミュレーションで特定・改善し、タンパク質分子モーターに匹敵する100 nm/s以上の運動速度を達成する。さらに、ヘテロな塩基配列を有するDNAナノ粒子モーターを二量体化し、外部からのDNA添加で運動方向の制御を可能にする。
DNAナノ粒子モーターの運動の素過程として考えられるのは、1)金ナノ粒子の拡散、2)DNA-RNA二重鎖形成、3)RNase Hの結合、4)RNAの分解、5)分解されたRNAの解離の5つである。高速化を達成するため、今年度は以下の2項目に取り組んだ。項目1:高速高精度計測でDNAナノ粒子モーターの運動素過程を可視化し定量化する、項目2:反応1サイクルに要する時間(τ)を最小化しDNAナノ粒子モーターを高速化する。項目1については、独自に開発した全反射レーザー暗視野顕微鏡を粒径100 nmのDNAナノ粒子モーター高速高精度計測に適用し、その運動が数100秒の停止と数10nmのステップで構成されることを明らかにした。DNAナノ粒子モーターの運動速度が低い原因は、停止が100秒以上と長いためであり、これは、DNAナノ粒子モーター上の個々の反応サイトのτが長いことに由来している事を明らかにした。項目2については、実験結果を定量的に再現するシミュレーションを実験と並行して開発した。実験およびシミュレーションの結果、素過程3)RNase Hの結合が律速であることを同定し、溶液中のRNase Hを増加させてτを短くすることで停止を短くし、運動速度を100nm/sまで増加させることに成功した。しかしながら同時に、高いRNase H濃度では、運動の距離と一方向性が大幅に減少することも明らかとなった。シミュレーションにより、素過程2)DNA-RNA二重鎖形成の速度を高めることでこのトレードオフが改善されることが予測されたため、DNA/RNAの塩基配列を変更した新しいDNAナノ粒子モーターを設計し、生体分子モーターに匹敵する30 nm/sの運動速度と3 マイクロメートルの運動距離、および運動の一方向性を同時に達成することに成功した。
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
本研究の実施項目は下記の4つであるが、今年度で項目1と2は完了したため、おおむね順調に進展していると結論した。項目1:高速高精度計測でDNAナノ粒子モーターの運動素過程を可視化し定量化する項目2:反応1サイクルに要する時間(τ)を最小化しDNAナノ粒子モーターを高速化する項目3:DNAの塩基配列や塩基長の設計でステップサイズ(Δ)を大きくして高速化する項目4:DNAナノ粒子モーターを二量体化し個々の粒子の速度制御で運動方向を制御する
下記の項目3と4に取り組む。項目3:ステップサイズの最大化による高速化と運動速度制御。ステップサイズを、ナノ粒子上のDNAがRNA足場へアクセスできる範囲を拡大し最大化する。具体的には、ナノ粒子上のスペーサーDNAの長さを検討する。長さの増加によりステップサイズが増加すると期待されるが、同時にDNA間の立体障害の増加で金ナノ粒子表面の修飾率が低下し高速化が得られない可能性も考えられる。そこで別の戦略として、外部から添加したDNAと金ナノ粒子上のスペーサーDNAとの二重鎖形成でDNAの剛性を上げてステップサイズを増加させる方法も検討する。DNAの持続長は二重鎖形成により2 nmから50 nmに増大するため、ステップサイズの大幅な増加が期待できる。τの最小化による高速化との相乗効果でさらなる高速化を目指す。さらに、外部から添加したDNAとスペーサーDNAとの二重鎖形成による、配列特異的なDNAナノ粒子モーターの速度制御を検討する。項目4:二量体化DNAナノ粒子モーターの開発と運動方向制御。DNAを金ナノ粒子表面に修飾する際、足場RNAへの結合用のDNAに加え、金ナノ粒子どうしを繋ぐリンカーDNAを微量加え、二量体化した金ナノ粒子を調製する。まず、足場RNA結合用の同じDNA塩基配列を持つホモ二量体金ナノ粒子を調製する。二量体化で長軸方向の回転が抑制され運動の直進性が向上すると期待される。塩基配列や長さによりリンカーDNAの剛性を調節し、高い直進性を示すようDNAリンカーを最適化する。続いて、足場RNA結合用の異なるDNA塩基配列を有する金ナノ粒子を結合させたヘテロ二量体を調製する。さらに、DNAを外部から添加して二量体の片方または両方のスペーサーDNAと二重鎖を形成させ、二つの金ナノ粒子が同等の運動速度ならば直進、片方の速度を高めればカーブを描いて運動することを実証する。
All 2024 2023
All Presentation (7 results) (of which Int'l Joint Research: 3 results, Invited: 4 results)