Publicly Offered Research
Grant-in-Aid for Transformative Research Areas (A)
本研究は、約30年前から調査に入っている大規模公営団地の生活困難層(生活保護家庭、ワーキングプア家庭)へのインタビュー調査をおこなう。以前にインタビューした保護者への継続インタビューに加えて、高校卒業後の子ども本人にもインタビューを実施することで、高卒後の進学や就職の進路選択とその後の生活実態を検証し、「高卒後の進路保障」を確実にするための教育と社会の条件整備をいかに構築すべきかを考察する。
本研究では、約30年前から調査に入っている大規模公営団地の生活困難層(生活保護家庭、ワーキングプア家庭)へのインタビュー調査をおこなうことである。実際の調査では、以前にインタビューした保護者への継続インタビューに加えて、高校卒業後の子ども本人にもインタビューを実施することで、高卒後の進学や就職の進路選択とその後の生活実態を検証し、「高卒後の進路保障」を確実にするための教育と社会の条件整備をいかに構築すべきかを考察することを目的としている。2023年度は、約9月と3月の2回、現地の大規模団地にインタビュー調査に行き、約50件に依頼状を出して、合わせて14件のインタビューをおこなうことができた。本研究で明らかにしたいことは「高卒後の進路保障」であるが、とくに調査ではその進路を選択する家族の教育戦略に注目している。従来の調査において、生活困難層を含む低所得層家族の進学期待には、4つの教育戦略があることがわかった。すなわち、①学歴による戦略、②早い自立の戦略、③手に職・資格戦略、④つながりによる職業獲得戦略である。とくに注目しているのは、子どもの進路が順調な③の手に職・資格戦略である。2023年度の調査では、手に職・資格戦略に分類される家族へのインタビューは、2回の調査を合わせて、6件(B135,B164,B193,C08,C15,C117)のインタビューが実施されている。詳細分析はまだであるが、手に職・資格戦略の家族では、どの家庭の子どももおおむね順調に自らの進路を進んでいる様子がうかがえた。また、インタビューから、大学修学支援法により、授業料免除と給付型奨学金が活用でき、大学や専門学校に進学することができたというインタビューが少なくとも2件あり、低所得階層にとって、この制度の大きな意義を確認することができた。
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
2023年度は2度、現地に調査に行き、合計15件のインタビューをおこなうことができた。内訳は、親・保護者へのインタビューは14件、地元の高校教員へのインタビューが1件である。親・保護者へのインタビュー14件の階層的な内訳(インタビュー率)は、安定層4件(20%)、生保2件(29%)、ワーキングプア8件(33%)、傷病・障害0件である。依頼状の返送率は、安定層30%、生保57%、ワーキングプア17%であった。ここから低所得層のワーキングプアが団地に定着しており、インタビュー率も高いという傾向があり、逆に安定層は団地から転居している傾向性がみられた。生保も転居数が多いが、その理由が生保受給を止めたのかどうかは、現時点ではわからない。調査において親・保護者へのインタビューにおいては、おおむね順調に進展していると考える。しかし、今回調査で目的としている子ども本人へのインタビューは難航していて、まだ1件しかできていない。子どもへのインタビュー実施のあり方については、来年度の課題として新しい方法を考えたい。以上の問題点はあるものの、調査研究全体としては、おおむねに順調にしていると考える。
2024年度は、8月から9月にかけて、調査に行く予定である。親。保護者へのインタビューは、まだ依頼状を出していない24件に依頼状を出し、インタビューをお願いする予定である。難航している子ども本人へのインタビューは、オンラインインタビューに切り替えるなどして、調査の期間を現地に行っている時だけではなく、いつでもインタビューできるようにするなど、いままでのアプローチと違う方法をとることを検討する。子どもへのインタビューは、大学や専門学校に在学中の場合は、勉学の状況、親子関係、友人関係、奨学金の有無、アルバイトの有無、将来の就職などについて聞き取る。就職している場合は、就業実態(賃金や職場の雰囲気)や生活(結婚、友人関係、親子関係)について聞き取りをおこなう予定である。さらに、調査地の進路状況を探るために、現地の高校や専門学校の教員へのインタビューを増やすことも検討したい。