Publicly Offered Research
Grant-in-Aid for Transformative Research Areas (A)
本研究では、無機結晶の格子内にリン分子 P2 を含む化合物に着目し、P2 分子の共有結合を切断したときに生じる結晶の巨大な伸びを利用した「化学」アクチュエータを創製する。ThCr2Si2 型構造を持つ遷移金属ニクタイドは P2 分子の化学結合の切断・形成を伴う構造相転移を示す。この転移に伴い結合軸方向の c 軸長が約10%伸縮する。この巨大伸縮(変位)を利用したアクチュエータを創製する。この方法は、伸縮が0.01%以下である従来の圧電(ピエゾ)効果を利用したアクチュエータとは異なり、無機結晶(セラミックス)中の分子性ユニットの化学結合の変化を直接利用した化学的手法である。
本研究の目的は、無機結晶の格子内にリン分子P2を含む化合物に着目し、P2分子の共有結合を切断したときに生じる結晶の巨大な伸びを利用した「化学」アクチュエータを創製することである。ThCr2Si2 型構造を持つ遷移金属ニクタイドは P2分子の化学結合の切断・形成を伴う構造相転移を示す。この転移に伴い結合軸方向のc軸長が約10%伸縮する。この巨大伸縮(変位)を利用する。この目的を達成するために、第1年度(令和5年度)は(1)化学種の選択、(2)温度による制御、(3)電界による制御を計画したが、このうち(1)と(2)において以下に述べる成果を得た。(1)化学種の選択: Sr(Ni1-xFex)2P2および Eu(Rh1-xCox)2P2において固溶体が生成することが明らかになった。さらにSr(Ni1-xFex)2P2においてはSn/Biをフラックスとして用いると単結晶が得られ、Eu(Rh1-xCox)2P2においてはPbを用いることで単結晶が得られることが分かった。電子プローブマイクロアナライザーにより化学組成を解析した。固溶体が生成する元素の組み合わせを突き止めたことで、P2分子の結合形成・切断の相転移の化学的な制御が可能となった。また、単結晶の育成条件が明らかになり、アクチュエータ素子作製の目処が立った。(2)温度による制御:Sr(Ni1-xFex)2P2において温度可変の単結晶X線構造解析を実施し、P2分子の結合形成・切断の相転移が起こる転移温度Tsと化学組成xの関係を相図にまとめた。組成x=0.0においてTs=325Kであったが、x=0.10においてはTs=160K、さらにx=0.20ではTs=0Kとなった。またTsの低下に伴って、P2分子の形成・切断に伴うc軸長の不連続が大きくなることが分かった。c軸長の変化が大きくなることはアクチュエータ動作にとって利点となる。
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
第1年度の研究実施計画に対して(1)化学種の選択については、Sr(Ni1-xFex)2P2および Eu(Rh1-xCox)2P2の固溶体の単結晶が得られ、計画が達成されている。さらに(2)温度による制御については、Sr(Ni1-xFex)2P2のP2結合形成・解離温度Tsと化学組成xに対する相図が得られ、計画が達成されたといえる。一方で(3)電界による制御は未達成であった。電界効果トランジスタの方法によりキャリア数を変化させるには、極めて清浄な表面を準備し、さらにショットキー障壁が生じない電極材料の選択などの高い技術が求められる。当初計画では予期していなかった成果として、P2分子が切断された高温相においてc軸が負の線熱膨張を示すことを見いだした。これはP2分子の解離に伴って発現した超セラミックスの新しい機能・物性ともいえる。これらのプラスとマイナスの進捗状況を踏まえて、概ね順調に進展していると評価した。
(1)結晶育成: Eu(Rh1-xCox)2P2の固溶体の単結晶を育成する。第1年度の研究により、Pbフラックス法による結晶成長が確認され、x=0.10の組成においてはP2分子の結合形成・解離の相転移温度Tsが室温以上であることまで突き止めた。今後Co量xを増やすことでTsを室温程度まで低下させることで、室温動作の化学アクチュエータに適用する。(2)温度による制御: Eu(Rh1-xCox)2P2において温度可変の単結晶X線構造解析および電気抵抗率測定を行い、P2分子の結合形成・切断の相転移温度Tsと化学組成xの関係 (相図) を明らかにする。特に相転移に伴うc軸長の変化の大きさを調べる。(3)力学特性:P2分子の結合形成・切断の相転移における応力-歪特性をインデンター試験により調べる。これによりP2分子の結合形成と解離を利用した化学アクチュエータの力学特性を明らかにする。インデンター試験は領域内の共同研究として行う。(4)第一原理計算: P2分子の解離・形成の相転移は、遷移金属 d バンドの化学ポテンシャル(フェルミエネルギー) EFとP2 分子の反結合軌道エネルギー Eσ* の拮抗により生じると考えられている。2つのエネルギーの大小関係が EF > Eσ* となると、遷移金属からリンへの電子 移動が起こり、P2分子の反結合軌道が占有されるので、P2分子が解離する。この機構を、Quantum Espressoを用いた量子計算により調べる。(5)新規物性と機能:第1年度に、P2分子が解離した高温相において結晶のc軸長が昇温とともに減少する負の線熱膨張を見いだした。今後、温度可変の 単結晶X線構造解析を実施し、原子座標や熱振動因子などの構造パラメータの温度依存性を調べ、負の線熱膨張の起源を明らかにする。特にP2 分子の解離との関係を調べる。
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Physical Review B
Volume: 107 Issue: 23 Pages: 235110-235110
10.1103/physrevb.107.235110
https://ltphys.hiroshima-u.ac.jp