Publicly Offered Research
Grant-in-Aid for Transformative Research Areas (A)
再生時に臓器サイズに応じてかかる外力の力学情報を、臓器内の細胞がどのように感知し、臓器細胞の増殖分化・自己組織化を促し再生が起こるのか臓器の抗外力恒常性の基本原理は不明である。私たちは、YAPが重力に抗した3次元臓器を構築・拡大するメカニズムを見出し、その本質がYAPによる細胞外基質ECMと細胞間の力学的相補性を介した細胞増殖分化制御メカノホメオスターシスを明らかにした。本研究では、再生過程での時空間的測定が可能なゼブラフィッシュ尾ヒレとミニ腸管培養系を用いて、再生過程での、YAP活性化、ECMの力学、力学応答の動態計測から数理モデルを構築し、YAPメカノホメオスターシス作動原理解明をめざす。
生命誕生時から生物は絶えず重力に曝されている。進化過程において重力などの外力に抗して生理機能を維持する抗外力恒常性が獲得されたと考えられるが、その機構は不明な部分が多い。 再生時に働く自己組織化において「臓器サイズに応じてかかる外力の力学情報を、臓器内の細胞がどのように感知し、臓器細胞の増殖分化・自己組織化を促し再生が起こるのか? 臓器サイズが元に戻ると、どのようにしてそれらが停止するのか?」という臓器の抗外力恒常性の基本原理が未だに解明されていない。私たちは、体と臓器の扁平化を起こすhirameメダカ変異体の分離・解析から、原因遺伝子YAPが重力に抗した3次元臓器を構築・拡大するメカニズムを見出し、その本質がYAPによる細胞外基質 (Extra Cellular Matrix: ECM) と細胞間の力学的相補性を介した細胞増殖分化制御 [メカノホメオスターシス(力学恒常性)]すなわち“外力に押されたら押し返す”メカニズムであることを明らかにした [Porazinski..& Furutani-Seiki, Nature (2015)]。さらに肝芽オルガノイド解析から、オルガノイドが適切な力学特性を獲得し、重力に抗して自律的に秩序化した拡大と自己組織化をするためには、少数の間葉系細胞がYAPを介して組織メカニクスを感知・制御するとの仮説を立てた。本研究では、再生過程での時空間的測定が可能な2つの解析系 ①ゼブラフィッシュ尾ヒレと②ミニ腸管培養系を用いて、再生開始からフィードバックによる収束過程での、YAP活性化、ECMの力学、力学応答の動態計測から数理モデルを構築し、YAPメカノホメオスターシスの作動原理の解明をめざす。
3: Progress in research has been slightly delayed.
[研究1] ヒレ再生過程での力学・細胞応答動態の計測: 再生芽は、①間葉細胞の密度が高くYAPが不活化した遠位再生芽(DB)②密度が低くYAPが活性化した近位再生芽(PB)、③軟骨などへの分化が起こる分化ゾーン(PZ)からなり、分化した細胞が再生芽から切断面に付加されつつ再生が進行する。間葉系細胞の力覚感知と力学制御機能の予備データを踏まえて、臓器サイズ回復の力学制御に関するバランス仮説を立てた。①近位再生芽の間葉細胞が疎のためYAPが活性化して増殖すると共に、PZで分化細胞を生み出し残存組織に付加していく。②ヒレが元のサイズに近づくと、近位再生芽の疎の間葉細胞が減少して再生が停止する。(1)本仮説の検証のために、本年度は、ヒレサイズの回復に伴って、間葉細胞によるその力学情報感知をYAP活性化で測定するため、GTIIC-YAPレポーターゼブラフィッシュヒレ再生系を解析したが、レポーターが十分に働かなかった。そこで、公募班の福井先生より供与された別のYAPレポーターの解析を行ったが、やはり検出ができなかった。現在、YAP-EGFP融合蛋白を発現するためにゲノム編集でノックインしている。(2) 再生芽の3つのゾーンなどの多点同時の粘弾性の測定を行った。途中で、磁場発生装置が故障したために、本学工学部の磁気の専門家に相談し故障原因を探ったが、原因がわからないため、新しく磁気発生装置を作成した。[研究2]ミニ腸管の再生へのYAPメカノホメオスターシスの役割の解析: YAP活性化と腸幹細胞を可視化するために、それぞれYAP-RFPとlgr5-GFPを発現するトランスジェニックマウスから腸オルガノイドを作製した。
[研究1] ヒレ再生過程での力学・細胞応答動態の計測ゼブラフィッシュの尾ヒレは、生後5日幼魚で3日、成魚は3週間で元のサイズに再生する。再生芽は、間葉細胞から分化した細胞が再生芽から切断面に付加されつつ再生が進行する。間葉系細胞の力覚感知と力学制御機能の予備データから立てたバランス仮説を検証するために、ヒレサイズの回復過程で、間葉細胞での力学測定を行う予定であった。このマイクロ磁気ビーズに電気による磁場をかける機器の故障のため、修理に注力すると同時に、別の方法で測定方法を試みる。YAP活性化のダイナミクス解析は、現在作成中のYAP-EGFPノックインメダカを用いる。ヒレ組織の修復過程でYAPの一過性の活性化が起こるが、その制御機構を明らかにするために、多プローブのin situハイブリダイゼーション法を用いて解析を行う。[研究2]ミニ腸管の再生へのYAPメカノホメオスターシスの役割の解析腸陰窩にある腸幹細胞から分裂した細胞は分化しながら絨毛方向に移動し、その頭頂部から失われる。腸幹細胞は硬いECMで、絨毛周囲の分化細胞は軟らかいECMで維持されることが報告されているが、実際に腸陰窩でのECMの硬さは不明である。腸管上皮の再生には、YAPの一過的活性化が必須である。その際の、ネガティブフィードバックによるYAP不活化と、どのようにECMの硬さ、細胞分化増殖などが時間空間的に変化、収束するのかを計測することで、YAPメカノホメオスターシスの作動原理を明らかにする。そこで、 (1)YAP活性化と腸幹細胞を可視化するために、それぞれYAP-RFPとlgr5-GFPを発現するトランスジェニックマウスから腸オルガノイドを用いて解析を行う。(2)力学特性測定: 磁気ビーズを混ぜた人工細胞外基質を用いてミニ腸管を作製することで力学計測を行う。