Publicly Offered Research
Grant-in-Aid for Transformative Research Areas (A)
動物は種によって異なるサイズの脳をもっているが、そのしくみは未解明である。この問題に対し、細胞レベルでの増殖/分化の制御機構はわかってきたものの、組織として、あるいは器官として調和のとれた発生のしくみは不明である。本研究は、神経幹細胞にかかる力学的作用が神経幹細胞の増殖・分化の時期的制御にはたす役割を明らかにし、脳発生の新たな秩序として位置付けることを目的とする。本研究は個体の脳発生のみならず、種間で異なる脳サイズをもたらすしくみ、また脳以外の内腔をもつ器官の発生にもつながる波及効果の高い研究である。
動物は種によって異なるサイズの脳をもっているが、そのしくみは未解明である。脳の発生では、神経幹細胞が自己増殖によって一定量の幹細胞プールを確保したのち、神経細胞やグリアを産生する。本研究では、器官形成の秩序として神経幹細胞のモード移行を制御するしくみ、さらには動物種間の脳サイズの違いを決めるしくみに関し、脳脊髄液による力学刺激が神経幹細胞の増殖・分化に与える影響を明らかにし、脳発生過程における力学刺激の経時的変化が神経幹細胞制御のタイマーとして寄与するという仮説を検証する。本研究により、脳室内圧による神経幹細胞の増殖・分化制御を脳発生の新たな秩序として確立することを目指している。本年度は、本研究の作業仮説の前提となる脳室内圧の経時変化を調べた。これまでに、マイクロ流路を用いた微小空間の微弱圧力の測定方法を開発し、改良を重ねてきたものの、計測の安定性、技法の簡便性にやや難があり、全く異なる手法として圧電センサーを用いた微小空間・微弱圧力計測システムを開発した。その結果、既に得ている測定結果と概して矛盾せず、計測効率の著しい向上によって多数の検体の測定が可能となった。この方法を用いて、マウス12.5~15.5胚の脳室内圧を子宮内外で測定し、加えて子宮内圧も測定した。その結果、当初の予想通り脳室内圧はステージとともに概ね減弱する傾向が確認された。脳発生における脳室内圧の生理的意義を明らかにするために、ニワトリ胚で脳室内圧を操作して、神経幹細胞の増殖、分化に対する影響を詳細に調べた結果、加圧すると増殖し、減圧すると分化することがわかった。マウスでは致死性が高く、検体を得られなかった。また脳室内圧の変化に応答する分子基盤を明らかにするため、脳室内圧を操作したニワトリ胚から採取したサンプルを用いてトランスクリプトーム解析を行い、圧力/張力の変化に応答して発現変動する遺伝子群を同定した。
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
本年度は、脳室内圧と神経幹細胞の増殖・分化の関係を明らかにするため、実験操作の容易なニワトリ胚を用いて脳室内圧の減圧、および加圧を行って、神経幹細胞の増殖・分化、特に神経細胞の産生に対する影響を詳細に調べた。また、脳室内圧による神経幹細胞間の張力の変化を調べるために、細胞接着因子、細胞骨格因子に対する免疫染色等を行って細胞間張力がモニターできるかどうかについて検討した。その結果、脳室内に加圧して神経幹細胞に張力を負荷すると、それに伴って細胞接着装置の構成因子の増大が観察されたものの、これらの因子は細胞密度の上昇によって細胞間に圧縮応力が発生している状況でも同様に増大したことから、必ずしも張力の減少を正しくモニターすることはできないことが判明した。脳組織片に対し全方向性に張力を付与する装置の購入予定であったが、事前にデモ機の貸与を受けて試したところ、培養組織片の付着不良等、種々の致命的な問題が露呈したため、購入を取りやめた。これに替えて、上記のニワトリ胚で脳室内圧を増減した検体を用いてトランスクリプトーム解析を行った。その結果、加圧による顕著な遺伝子発現変化は認められなかったものの、減圧個体群で、増殖・分化に関与する遺伝子の発現変化を確認した。さらに、これまでの脳室内圧の測定法を再検討した結果、現状では圧電センサーを用いる方法が最適であるとの結論に至り、本学自然科学研究科の中島准教授の協力によって、専用の測定機器を開発し、比較的安定した微小空間の内圧の測定法を確立した。この方法を用いて、神経幹細胞の増殖から分化への移行期のマウス胚の脳室内圧をステージを追って計測した。
脳室内圧の経時的な変化は概ね明らかとなったが、神経幹細胞のふるまいの直接的な要因と考えられる脳胞内の細胞間張力については、いまだ計測の目途が立っていない。この問題に対し、脳室内圧、子宮内圧、脳胞を含む頭部組織のヤング率等を勘案して、細胞間張力を推定する方法について検討を行う。新たな視点として、発生が進行し細胞密度が上昇した際の核の形状変化と、増殖・分化との関連についても検討を行う。今年度のトランスクリプトーム解析で得られた候補因子に加え、より早期の反応を調べるための解析準備を進め、力学応答から増殖・分化を制御するHippo/Yap経路に至るカスケードの解明をめざす。これに並行して、張力感知からYap経路への関与が示されている既知の因子を対象とした実験操作を行い、脳室内圧の変化と細胞の挙動をつなぐ分子機構の解明を行う。また、本年度遂行できなかった細胞間張力を介さない脳室内圧の影響を明らかにするべく、計測された脳室内圧に基づき、切り出した脳室帯の組織片に静水圧を印加して神経幹細胞の増殖・分化に対する影響を調べる。静水圧印加のための培養デバイスはすでに作製済みである。さらに、本年度の観察から見出された核の形状変化と、増殖・分化についても、その因果関係、および機能的関与について明らかにする。
All 2024 2023
All Presentation (2 results) (of which Invited: 2 results)