Publicly Offered Research
Grant-in-Aid for Transformative Research Areas (A)
本研究は、生体の免疫センサーがもつ「自己」と「非自己」認識に着目して、マクロファージによる腫瘍認識機構とその破綻によるがんの発生機序の基本原理を明らかにしていくものである。この目的を達成するために、遺伝学的解析や生体ライブイメージング解析を駆使しながら腫瘍とマクロファージの相互作用の分子実体とその制御機構を解析していく。
生物は生体外から侵入した病原体を自身とは異なる“非自己”として認識・排除し恒常性を維持している。しかし、もともと“自己”細胞であった腫瘍細胞に対して、生体の免疫センサーがどのように健常細胞との違いを識別し異物として感知・認識しているのか、腫瘍認識の仕組みについては不明な点が多い。本研究では、ショウジョウバエ遺伝学を駆使することで上皮に発生させた腫瘍に対するマクロファージの認識機構とその破綻によるがん発生メカニズムを解析し、免疫センサーの自己認識を起点とした生体防御システムの理解を目指していく。ショウジョウバエ上皮にがん遺伝子Srcを活性化した細胞集団(がん原性細胞集団)を誘導すると、これらの細胞の周囲にマクロファージが集積していたことから、がん原性細胞とマクロファージの時空間動態をライブイメージング手法により解析した。その結果、マクロファージががん原性細胞を上皮層から積極的に除去していることが分かった。そこで、マクロファージによる腫瘍認識・排除に関わるがん原性細胞側の因子を探索したところ、細胞膜貫通型プロテアーゼがマクロファージによる腫瘍細胞の排除に関連していることが見えてきた。このことはマクロファージによる腫瘍認識・排除において、細胞膜貫通型プロテアーゼががん原性細胞のアキレス腱となっていることを示唆している。一方、これまでの研究代表者の解析からショウジョウバエホモログZfh1(哺乳類ZEB1ホモログ)の発現をSrc活性化細胞集団で亢進すると、これらの細胞集団は過剰に増殖し隣接組織に浸潤転移することが分かっている。そこで、SrcとZfh1を活性化した細胞集団に対するマクロファージの応答を解析したところ、これらの細胞はその周囲にマクロファージが集積しているものの排除を免れる挙動を示した。
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
マクロファージによる腫瘍の認識排除に関わるがん原性細胞側の分子が見えてきたことで、本分子を認識するマクロファージの受容体の探索・絞り込みの道筋が見えてきた。また本解析過程で、腫瘍とマクロファージ間で起こる相互作用と類似の生体応答が組織傷害時の異常細胞とマクロファージ間でも生じている可能性が出てきた。これらの結果を基にしながら、さらに解析を進めることでマクロファージによる自己・非自己認識の基本原理の理解につながる成果が期待できる。
今後はがん原性細胞とマクロファージの相互作用に関して、腫瘍細胞の認識・除去に関わるマクロファージ側の分子(受容体)の同定とそのメカニズムを解析していく。また、転写リプレッサーZfh1の活性化がどのようにマクロファージによる腫瘍認識を回避させるのか、その分子メカニズムを遺伝学的に解析すると共に、Zfh1の活性化による腫瘍細胞の増殖促進や浸潤転移がマクロファージの認識回避と関連しているか解析を進める。
All 2023
All Presentation (7 results) (of which Invited: 2 results)