Publicly Offered Research
Grant-in-Aid for Transformative Research Areas (A)
レーザダイナミクスのカオス的挙動を強化学習等に応用する研究が進められている。この挙動は実質的には確率的な振る舞いとみなすことができ、本研究はその挙動に基づいて確率モデルを構築することを目的とする。その方法として、非線形ダイナミクスを線形演算の行列で扱うためのKoopman作用素・双対確率過程と呼ばれる数理的な枠組みを利用する。確率モデル化によって情報理論的な解析を可能にし、レーザダイナミクスのもつ情報処理能力を定量的に知るための基盤を構築することを目指す。
研究計画1年目となる本年度は、主にデータから方程式を推定する手法に関する検討を実施した。先行研究の generator Extended Dynamic Mode Decomposition (gEDMD)と呼ばれる手法を利用することで、時系列データから方程式を推定することができるはずであったが、実際にレーザダイナミクスから生み出されたデータに適用したところ、うまくいかなかった。そこで先行研究で用いられていた素朴な確率系から生み出されたデータで検討した結果、先行研究ではある種の理想的な環境が設定されていたため推定できていたこと、実際の時系列データだけからの推定においては、ノイズの影響が大きく、十分な推定をできないことが明らかとなった。そこで、空間構造を利用したデータの前処理を考案した。ポイントは代表点の選出のためのクラスタリングと、空間構造を利用したノイズ低減のためのクラスタリングの二つを実施することである。これにより、素朴な確率系に対する推定性能が大幅に改善されることを示した。この成果は学会発表済みであり、現在、英語学術論文を投稿中である。続いて、改良した手法をレーザダイナミクスのデータに適用した。結果として、レーザダイナミクスには時間スケールの異なる二つの振る舞いが存在すること、その一部を確率モデル化できることが明らかとなった。具体的には、相互結合レーザの決定論的カオスが生み出す「リーダ・ラガード現象」と呼ばれるものについて、モードの切り替え時間間隔がべき分布を示すことがわかっている。そして、データから推定した方程式系をシミュレーションすると、このべき分布が再現されることを示した。まだ全体の確率モデル化には成功していないが、決定論的カオスが生み出すデータの特徴を確率モデルで捉えることができたのは大きな成果と言える。本成果の一部は国際会議で発表した。
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
当初は素朴に先行研究の手法を利用できるかもしれないと考えていたが、ノイズの影響によりうまく推定できないことが明らかとなった。しかし、この問題点を解決する方法を考案できたことは大きな進展である。これにより、当初の予定通り、レーザダイナミクスが生み出す決定論的カオスの振る舞いを、確率モデル化できる見込みが立った。そして一部分ではあるが、統計性を再現できることも明らかにできた。以上のことから、問題点が出たものの、それを解決し、当初の予定通りに進んでいると判断できる。
当初の予定通りに計画が進んでいるため、引き続き、リーダ・ラガード現象の全体の振る舞いの確率モデル化を進める予定である。これまでの検討により、時間スケールの非常に早いノイズ的な振る舞いと、比較的ゆっくりとした大きな動きの二つのモードが存在すること、これにより素朴にすべてのデータを用いた方程式推定は難しそうであることが判明している。よって、まずはハイパス・ローパスフィルタにより時間スケールを分離することを試みる予定である。また可能であれば、Koopman作用素を用いた方程式推定の枠組みを見直し、異なる時間スケールをもつデータを一度にモデル化する方法についても検討する予定である。
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All Presentation (2 results) (of which Int'l Joint Research: 1 results) Remarks (1 results)
http://www.sp.ics.saitama-u.ac.jp/ohkubo/index_j.html