Publicly Offered Research
Grant-in-Aid for Transformative Research Areas (A)
日本周辺の表層海水に対する河川水の影響の把握を目的とする。船舶による表層海水連続観測により、航路に沿った表層海水の密度・塩分データを取得する。測定には屈折率密度センサーを用いる。測定した密度から得られる絶対塩分と、従来の電気伝導度・水温センサーで得られる塩分との差から、塩分アノマリーを求める。塩分アノマリーの空間分布と時間変化から、河川水の影響とその消長を評価する。沿岸海域における表層混合過程に対する塩分アノマリーの影響を評価する。従来技術による塩分測定では塩分アノマリーを評価できず、海水の状態方程式における河川水の密度の過小評価が沿岸海域の混合過程の見積もりに与える影響を評価する。
日本周辺の表層海水に対する河川水の影響把握を目的として以下の研究を行った。気象庁「啓風丸」による東シナ海・日本海(6-8月)および本州南方(9-10月)の航海において、屈折率密度センサーによる表面海水連続測定と航路上で1日1回表面海水を採取し、塩分アノマリーを測定した。その結果、7-8月の東シナ海(九州西方)と日本海(山口・島根県沖)で長江の影響を受けた低塩分(33 g/kg以下)・高塩分アノマリーの表面海水を検出した。また、北海道・津軽海峡・九州の沿岸の週1回~月1回の採水試料、および、津軽海峡を横断する季節毎の採水試料に対して塩分アノマリーを測定した。より広域の日本周辺の表層海水の塩分アノマリーの特徴を理解するために、気象庁定線観測(2010年以降)や高精度船舶採水観測で得られた採水による化学分析データ(炭酸系・栄養塩)を基に塩分アノマリーを推定した。日本周辺の表層海水の塩分アノマリーの主な起源として、1)長江による影響(東シナ海・日本海)、2)クリル列島(オホーツク海)やアリューシャン列島(ベーリング海)での鉛直混合による深層水の影響、3)アムール川の影響(オホーツク海)があり、これらの高塩分アノマリー水が亜寒帯域(およそ北緯40度以北)表層に広がっていることが分かった。また、2の塩分アノマリーに対する深層水の影響ではケイ酸塩の影響が含まれ、亜寒帯域表層のかなりの部分を占めているように見える。
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
日本周辺の海面塩分の季節変化に関する予備的な調査から、長江を起源とする低塩分水が夏季に東シナ海から日本海に流入しており、気象庁「啓風丸」航海による表層海水連続観測により長江の影響を受けた低塩分水の広がりをとらえることができた。津軽海峡南部のむつと北部の函館、北海道沿岸(日本海側・太平洋側・オホーツク海側)、対馬海峡南部(糸島)、九州東シナ海側(八代海)において、2023年から週1回~月1回の頻度で塩分アノマリーデータを蓄積しており、また、「うしお丸」等による津軽海峡を横断する測点で季節毎の塩分アノマリーデータを蓄積している。これらの測定データから、長江起源・アムール川起源の表層海水の特徴を把握することが期待できる。さらに、2024年からは、むつ湾内の複数の河川の河口域における塩分アノマリーの測定を開始し、日本の河川の塩分アノマリーの特徴の把握も目指している。
2024年度は、引き続き観測船による表層海水連続測定により日本周辺の塩分アノマリーの空間分布を測定する。屈折率密度センサーに加え、2023年度は準備が間に合わなかった音速・水温・電気伝導度計を統合した測定装置を2セット用意し、気象庁「啓風丸」による東シナ海・日本海(7-11月)、および、海洋研究開発機構「みらい」による津軽海峡の東部沖合(10月)の連続測定を行う。また、北海道沿岸・むつ・糸島等の日本沿岸と、うしお丸等による津軽海峡を横断する塩分アノマリーの測定を継続する。新たに、山口・島根・鳥取・富山・秋田等の各県水産試験所等による日本海沿岸の沖合定線、および、隠岐(島根大)・佐渡(新潟大)の臨海実験所での塩分アノマリーの測定を開始し日本海の観測を強化する。これらの結果を、日本全国の水産試験所等の定線観測を含む歴史的データから求める日本周辺海面塩分の季節・経年変化と統合的に解析し、河川水の影響を把握する。