Publicly Offered Research
Grant-in-Aid for Scientific Research on Innovative Areas (Research in a proposed research area)
海馬や大脳皮質などの脳領域は成熟期において可塑性誘導刺激に応じて樹状突起スパインを新生するが、その役割は未だ不明な部分が多い。我々は、可塑性誘導刺激に応じてスパインの前駆体である樹状突起フィロポディアを新生するシグナル系として、ニューロトリプシンによるアグリン切断系を同定した。本年度は、このシステムが作動しないニューロトリプシン遺伝子欠損マウスを用い、樹状突起スパインの新生が記憶・学習のどの段階に寄与しているのかを検討した。恐怖条件付け試験では、ニューロトリプシン遺伝子欠損マウスは恐怖記憶の獲得には異常を認めなかったものの、恐怖反応の消去学習が障害されていることを見出した。この障害は、キュー依存性の恐怖反応のみならず、文脈依存性の恐怖反応にも認められた。同じ刺激から別の学習を繰り返すことに障害が生じているという本結果は、スパイン新生が学習能の恒常的維持に寄与していることを示唆している。ニューロトリプシンによって切断されたアグリンC末端断片は海馬における樹状突起フィロポディア新生に必須であるが、その受容体はNa+/K+-ATPaseのα3サブユニットであると考えられている。そこでNa+/K+-ATPaseの機能を修飾できる薬剤である強心配糖体Digoxinが樹状突起フィロポディアの新生にどのような作用を持つのかを解析した。Digoxinを腹腔内投与したGFPトランスジェニックマウスにおいて、海馬CA1ニューロンの樹状突起フィロポディアを2光子レーザー顕微鏡で観察したところ、Na+/K+-ATPase活性を増加させる濃度のDigoxinを投与した条件で樹状突起フィロポディアの本数が増加する傾向があることを見出した。強心配糖体は学習能の恒常的維持、特にPTSDなどストレス障害からの回復に効果を有する可能性が示唆された。
25年度が最終年度であるため、記入しない。