2025 Fiscal Year Comments on the Screening Results
植物が創出した細胞間連絡シンプラストが駆動する環境変動下での個体統御と生存戦略
Project Area (Abbreviation) | 植物シンプラスト |
Project/Area Number |
25A305
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Research Category |
Grant-in-Aid for Transformative Research Areas (A)
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Area Organizer |
野田口 理孝 京都大学, 理学研究科, 教授 (00647927)
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Project Period (FY) |
2025-04-01 – 2030-03-31
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Summary of the Research Project |
植物は、隣接細胞の細胞壁を貫いて原形質を直接つなぐ原形質連絡と呼ばれるトンネル構造により個々の細胞の原形質空間を共有しており、さらに全身に張り巡らせた篩管によってそれらを結んでいる。この全身で連続的に共有された原形質空間はシンプラストと呼ばれるが、近年の領域申請者らの研究によって、シンプラストは従来の想定よりもはるかにダイナミックな情報伝達の場であり、環境変動下における植物の細胞間・組織間コミュニケーションに重要な役割を果たすことが次々と明らかとなってきた。本領域では、領域申請者らの独自の知見に基づき、シンプラストの形成機構と機能制御、およびシンプラストが駆動する個体秩序と生存戦略の分子機構を解明し、多細胞生物の個体統御機構の理解に変革をもたらす。
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Outline of Opinions Expressed in the Review Results |
フロリゲンや窒素欠乏シグナルの研究に見られるような活性ペプチドやmRNAの発見を中心として、日本はシンプラスト経路を介する細胞間シグナル研究において世界をリードしてきたが、シンプラストの形成・機能制御機構や、それが駆動する発生成長と環境応答機構は、依然として未解明な部分が多く残されていた。本研究領域では、独自の解明への手掛かりを持つ研究者が集結し、これらの未解明課題に挑む体制になっている。既にシンプラスト形成・制御には植物界に普遍的な共通原理が存在することを示唆する成果を得ており、これら知見を基盤として多様な植物・組織を対象とした研究を通してその解明を目指すことで、国際先進性、独創性を担保し発展させる研究集団の構築に加えて、後の大きな成果が期待できる内容となっている。日本ではジベレリンを中心とした植物ホルモンの研究を通して世界に先駆ける植物ホルモン研究を発出してきた経緯がある。その流れを含む本研究領域が更なる裾野を広げて大きな分野となるものと期待している。そのためにも女性を含む後進の育成は必須である。一方で、本研究領域の研究進展により構築されるであろう学術領域がシンプラストの重要性を示すことにとどまっており、そこからどのような新しいコンセプトを世界に示すことができるかという視点は感じられない。日本発の研究成果というだけでなく、その成果を基盤とした世界に突出しけん引できる革新的な概念の構築が望まれる。なお、シンプラストは植物の広範な生命現象に関わるため、本研究領域は植物基礎研究全体、更には植物応用分野への大きな波及効果をもたらし、我が国の植物細胞間シグナル研究領域の優位性をより確固たるものにすることができるものである。
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