2018 Fiscal Year Annual Research Report
Project Area | Discovery of the logic that establishes the 3D structure of organisms |
Project/Area Number |
15H05857
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
秋山 正和 北海道大学, 電子科学研究所, 助教 (10583908)
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Project Period (FY) |
2015-06-29 – 2020-03-31
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Keywords | 形態形成 / 数理モデル / 応用数学 |
Outline of Annual Research Achievements |
松野班とはショウジョウバエの後腸の捻転メカニズムに関して共同研究を行っている.後腸は単層の細胞シートからなる筒状の構造をしている.周方向には約16個の細胞が並び,それと直行する方向へは約29個細胞が敷き詰められている.従って約450個の細胞から後腸はできていることになる.松野らの報告によれば,後腸はBasal・Apicalの区別を持ち,捻転前にApical面の細胞は特定の方向へ傾いている.ところが捻転後はその傾きが解消される方向へ,形態形成が起こる.この相関関係が腸管全体の捻転の因果関係となっていることを示すために,いくつかの研究グループと数理モデルを用いて計算を行ってきた(Taniguchi et al, Science, 2011, Inaki et al, eLIFE, 2018).これらの研究では細胞を2次元のバーテックダイナミクスモデルを用いて表現し,主にApical側の細胞の形をモデルに取り込むことで,腸管全体の捻転を再現することに成功している.一方で,実際の腸管の個々の細胞はApico-Basal軸の方向へ薄っぺらい構造しているのではなく,かなり分厚い構造となっていることが本研究から示唆されている.従って,腸管も肉厚の構造であることがわかっている.このような肉厚の構造において,内側のApical面だけの形態の変化だけで,果たして本当に腸管全体を捻転させるほどの力を生み出すことができるかどうかが新たな疑問として提案された.そこで,この現象を再現すべく,3Dのバーテックダイナミクスモデルを用いた相互的に検証可能な数理モデルの構築を行ってきた.モデルはほぼ完成し,国内外の主要な学会(National center for Biological Sciencesの研究報告会,生物物理学会,応用数学合同研究集会等)で研究発表を行った.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、前年度に構築した「三次元空間内での細胞運動を表現する自己駆動粒子モデル」と「基底膜を表現するPhase-fieldモデル」をカップリングした数理モデルを基盤として、ゼブラフィッシュ胚の体節形成過程において観察される集団的な回転運動が組織伸長を促進するという仮説を検証した。武田グループの実験観察の結果として、体節内の細胞が集団的な回転運動を起こすことと、基底膜のフィブロネクチンの分布が側方に多く上下端には少ないという異方的なものであることを示した。また伸長過程において、縦方向に配置換えを起こす2つの隣接する細胞の速度プロファイルを調べると、乗り上げられる細胞の速度が一定時間遅くなるという傾向が観察できた。この結果から、提案モデルにおいて「回転運動を起こす駆動力」と「基底膜からの異方的な反発力」を導入したモデルを構築し、提案モデルの数値計算結果として、実験観察で得られた傾向と同様の振る舞いが得られることを示した。さらに、回転力を制御するパラメータの依存性に関して、回転運動を排除した場合に比べて、回転運動を起こす場合の方が伸長率が高くなるパラメータ領域が存在することを示した。 ショウジョウバエ胚の後腸捻転現象に関する研究では、実際の後腸内に存在する細胞の形状変化を調べるために、zスタック画像から三次元形状を構築し、頂端面と基底面を繋ぐ細胞辺の長さが捻転過程を経て短くなることが統計的に有意であることを示した。このことから、前年度に提案した三次元バーテックスモデルにおいて、先行研究で示されている「頂端面の形状は正中線に対して左に傾いた形状であること」に次いで、「側面の辺は短くなること」と「基底面は不均一な六角形形状であること」を仮定し、側面の辺が短くなることで、結果として細胞組織全体が反時計回りに捻転し、個々の細胞も反時計回りに捻れることを示唆する数値計算結果を示した。
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Strategy for Future Research Activity |
ゼブラフィッシュ胚の体節形成過程に関する研究については、今年度に提案した数理モデルの数値計算結果から、提案モデルを解析することで実際の体節内の細胞運動を理解する手助けになるということが期待できる。実験観察および提案モデルの両方における問題は、どのような機構で縦方向の配置換えを起こす2つの細胞の速度に差が生じるかということである。次年度は、生体内における体節伸長過程で観察される配置換えを理解するために、提案モデルにおいて速度の差が生じる要因を特定する研究に取り組む。また、実験観察において、回転運動を抑制した場合に、個々の細胞運動はランダムな方向に運動し、組織の伸長率が低下するという結果が得られている。このことから、ランダムな細胞運動を表現する確率微分方程式として細胞運動を表現する数理モデルを構築し、実験結果を再現できるかどうかを検証する。さらに、細胞に内在する微小な変動が単に回転運動のみを行う場合に比べて、組織伸長を促進するかどうかを検証する数値実験を行う。 ショウジョウバエ胚の後腸捻転現象の研究については、実験観察における事実として後腸が肛門側から見て反時計回りに捻転することがわかっているが、数値計算結果で得られたように、個々の細胞が反時計回りに捻れるかどうかは統計的に示されていない。そのため、個々の細胞が捻れているかどうかを示すことが望まれる。現在のところ、これまでの実験研究と同様に、2つの色で細胞膜を染め上げたデータを作成したが、色が切り替わる部分で細胞断面がはっきりせず、正確に細胞断面の頂点を抽出できないという問題がある。今後は一つの色で細胞膜を染め上げた後腸のzスタック画像から個々の細胞の三次元構築を行うことで、個々の細胞の捻れ角を正確に計測し、捻転中に個々の細胞が捻れるという数理モデルで得られた結果が、実際の生体内で起こっているかどうかを明らかにする研究に取り組む。
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Research Products
(5 results)