2016 Fiscal Year Annual Research Report
細胞内温度センシングとエネルギー代謝制御機構の解明
Project Area | Integrative understanding of biological phenomena with temperature as a key theme |
Project/Area Number |
15H05930
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
梅田 眞郷 京都大学, 工学研究科, 教授 (10185069)
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Project Period (FY) |
2015-06-29 – 2020-03-31
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Keywords | 生理学 / 酵素 / 脂質 / 発現制御 / 昆虫 |
Outline of Annual Research Achievements |
温度は、生命活動の源となるエネルギー産生を担う生化学反応に最も強く影響を及ぼす要因の一つであり、生物は環境温の変動に呼応して個体のエネルギー代謝を変化させる多様な仕組みを獲得して来ている。同様の機構は様々な動物細胞においても認められ、環境温が低下してもミトコンドリアのエネルギー代謝レベルを一定に保つ代償機構が働くことが明らかにされている。しかし、個々の細胞がどのようにして細胞内の温度を感知し、ミトコンドリアのエネルギー代謝レベルを変化させるのか、その分子機構は依然不明である。 脂肪酸不飽和化酵素は、環境温の変動に敏感に応答してその発現が変化し、脂質分子の脂肪酸鎖に二重結合を挿入することにより細胞膜の流動性や物性を一定に保ち、恒流動性応答において中心的な役割を担う分子である。我々は、動物のエネルギー代謝と体温調節行動を結ぶ分子経路を明らかにする過程で、ショウジョウバエにおけるΔ9脂肪酸不飽和化酵素DESAT1がミトコンドリアのエネルギー代謝制御さらには個体の体温調節行動にも深く関わることを見出した。本研究では、DESAT1の発現・エネルギー代謝制御機構を詳細に解析することにより、細胞内の温度センシングとエネルギー代謝を連関する分子機構の解明を目指す。昨年度、ショウジョウバエ細胞におけるDESAT1タンパク質の発現量の制御が脂質二重膜の流動性に応答したタンパク質分解機構により行われていることが明らかとなった。 本年度は、DESAT1の発現制御に関わるタンパク質分解経路を特異的阻害剤と遺伝子発現抑制実験、プロテアーゼ活性測定により同定した。さらに、種々の領域の欠失変異体や点変異体を用いた解析から、上記分解経路への感受性に影響を与えるモチーフを脂肪酸不飽和化酵素内に同定し、DESAT1分解機構の詳細について解析を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
CRISPR/Cas9システムにより樹立したDESAT1欠損細胞を用いた解析から、同分子がミトコンドリアの脂質組成の制御のみならず、ミトコンドリアの形態制御にも関わることで、エネルギー代謝の制御に強く関与することを明らかにした。さらに脂肪酸とミトコンドリア機能との連関を研究する中で、脂肪滴からミトコンドリアへの脂肪酸動員へ関わる新規輸送体タンパク質を同定することに成功した。このように、温度変化に応答した脂肪酸の代謝経路制御とミトコンドリア機能が機能連関することにより、エネルギー代謝が制御される機構を明らかにしつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
温度変化への適応における脂肪酸不飽和化酵素を介するエネルギー代謝の制御機構を明らかにするために、細胞内局所の温度変化がDESAT1の発現とミトコンドリア機能へ与える影響を評価する。先ず、ショウジョウバエ培養細胞S2に細胞内温度計測プローブFluorescent polymeric thermometer (FPT)を導入し、その蛍光寿命を蛍光寿命顕微鏡(FLIM)により観察することで、細胞内局所の温度計測を行う実験系を構築する。そして、この細胞内温度計測技術を用いて、ミトコンドリアの機能を制御することを見出したDESAT1の阻害剤が定常状態およびミトコンドリア脱共役剤などにより熱産生を亢進させた条件における細胞内温度分布へ与える影響を評価する。また、CRISPR/Cas9システムを用いて樹立したDESAT1欠損細胞における温度分布も同様に計測する。さらに、脂肪酸不飽和化酵素の発現を制御する因子の局在と細胞内温度分布を同時に評価することで、脂肪酸不飽和化酵素の発現制御機構と細胞が温度を認識する機構との連関を解析する。これらの研究により、細胞内温度変化と脂質代謝、エネルギー代謝を結ぶ分子経路を明らかにする。
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Research Products
(7 results)