2019 Fiscal Year Annual Research Report
動機付けおよび強化学習に関与する分子・神経基盤の解明
Project Area | Creation and Promotion of the Will-Dynamics |
Project/Area Number |
16H06401
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
桜井 武 筑波大学, 医学医療系, 教授 (60251055)
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Project Period (FY) |
2016-06-30 – 2021-03-31
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Keywords | オレキシン / 社会性 / 社会的距離 / 扁桃体 / NPBWR1 / 社会性 / 低代謝 |
Outline of Annual Research Achievements |
生体内外の環境に合わせて覚醒レベルや自律神経系・内分泌系および行動の統合的な制御をおこなっているオレキシンを産生するニューロンは意志力の発現・維持に重要な働きをしていると考えられる。オレキシンニューロンの視床下部内における存在部位と入力系をその出力先別にcTRIO法をもちいて解析した。また、オレキシンニューロンが局在する視床下部外側野に投射する視索前野GABAニューロンの一次上流ニューロンの同定を進めている。 一方、ひきこもりなどの原因にもなる社会恐怖や対人恐怖にもアプローチするため、社会性(どれだけ活発に他者と関係を持とうとするか)を規定する脳機能の解明にむけ、新たに開発したNPBWR1-iCreマウスをもちいて社会性および社会的距離に重要な働きをするNPBWR1発現ニューロンの機能を解析してきた。CeAに局在するNPBWR1発現ニューロンは腹側海馬などから入力を受け、社会接触にともなって抑制されることが明らかになった。またNPBWR1発現ニューロンはGABA作動性の抑制性ニューロンであり、脳幹に投射して恐怖応答を制御していることがあきらかになった(投稿準備中)。 さらに摂食異常症のような低栄養状態をふくめ、全身のエネルギー状態がどのように脳機能に影響を与えるか、視床下部機能を検討してる過程で、前腹側室周核に局在するQRFP陽性ニューロンを興奮させると、長期にわたる低代謝状態を惹起できることが明らかになった。このニューロンは主にグルタミン酸作動性であり、背側内側核のニューロンに作用して冬眠様の低代謝状態を惹起することが明らかになった。 生体内外の環境がどのように脳機能・精神に影響を与えるかを明らかにするうえで重要な知見を得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の予定通り進めている。意志力の需要な構成要因である覚醒の維持に関わるオレキシンニューロンについては、広く視床下部外側野や後部視床下部に散在しているにもかかわらず、機能的なサブポピュレーションがあるのか、それらは機能的および投射別にわかれているのか、などは明らかになっていなかった。今年度はオレキシンニューロンの出力別にラベルし、視床下部内における局在およびそれぞれの上流ニューロンを明らかにし、報酬系や大脳辺縁系とオレキシンニューロンおよび下流のシステムとの神経接続をあきらかにした(投稿準備中)。このことにより報酬系や辺縁系がどのようにオレキシン系を制御するのかを明らかにするための基盤となる知識をえることができた。 低栄養状態における視床下部ニューロンの挙動の検討中にその興奮性制御により大幅かつ長期にわたる低代謝状態を惹起できるニューロンを見出したことは想定していない発見であったが、栄養状態と全身代謝を考える上では、拒食症などの病態理解にもつながる知見だと思われるため、研究を推進し、報告した。 また、ひきこもりの病態を理解するために、扁桃体中心核NPBWR1発現ニューロンの機能を解析した。NPBWR1遺伝子にiCreをノックインしたマウスを作成し、扁桃体中心核のNBPWR1ニューロンを操作することにより、このニューロンの機能を明らかにした。このニューロンは社会接触時に抑制されており、脳幹に働きかけて社会行動を促す作用を有していることを明らかにした(投稿中)。この知見は社会性・社会的距離を制御する神経経路を初めてあきらかにした重要な知見である。
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Strategy for Future Research Activity |
オレキシンニューロンに関してはサブポピュレーションごとの入出力系の特色を考慮して、それぞれの機能を探っていく。投射先ごとに若干異なる入力系を有しているが、それぞれのサブポピュレーションは、混在およびオーバーラップしながら視床下部に存在しているため、青斑核、縫線核、結節乳頭体核、視床室傍核など主な投射先から逆行性にオレキシンニューロンを同定し、特異的に光遺伝学的あるいは化学遺伝学的な操作を試みる。さらにオレキシンニューロンに投射する視索前野GABAニューロンの上流を明らかにし、覚醒系への神経性入力を明らかにした上で、報酬系や大脳辺縁系の、覚醒への出力に関わるニューロンを操作して実際に動物の行動に与える影響を明らかにしていく。 低代謝を誘導するニューロンに関しては、背内側核のターゲットニューロンをCatFISHおよびCANEを使って同定し、化学遺伝学的および光遺伝学的手法によって操作し、その機能を明らかにしていく。 社会性および社会的距離を制御するNPBWR1ニューロンの機能に関しては、NPBWR1自体に機能の相違を伴う、コーディング領域のSNPが存在するため、SNPの有無がどのように表現型に影響を与えるか、レスキュー実験を行うこなうことによって明らかにしていく。
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Research Products
(8 results)