2017 Fiscal Year Annual Research Report
ポリケタイド関連化合物の生合成系リデザインによる新規生体機能分子の創製
Project Area | Creation of Complex Functional Molecules by Rational Redesign of Biosynthetic Machineries |
Project/Area Number |
16H06446
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
南 篤志 北海道大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (40507191)
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Project Period (FY) |
2016-06-30 – 2021-03-31
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Keywords | 天然物 / 生合成 / 酵素 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題では、ポリケタイド系天然物の生合成マシナリーをリデザインして潜在的生物活性ポリケタイドを創製することを目的とする。具体的には、①数ある天然物生合成酵素の機能解析の中でも最難関の課題の一つとして位置づけられている骨格構築酵素PKS(-NRPS)の反応制御機構の解明と自在な機能制御、②修飾酵素の精密機能解析とそれを利用したポリケタイド鎖の構造多様化、③生合成システムの人為的再構築による複雑骨格多官能性分子の酵素合成の実現に取り組む。本年度は主に①と②について検討した。 昨年度のドメイン交換実験の過程で、所期の代謝産物を生産する形質転換体のスクリーニングがドメイン交換実験を行う上でのボトルネックの一つとなることがわかってきた。これは、PKS-NRPSのような12kbpを超えるサイズの遺伝子を麹菌へと導入する際には、①遺伝子の導入効率が悪いこと、②遺伝子の導入位置の制御が困難であることに原因があると考えた。この問題を解決するため、本年度はCRISPR/Cas9(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats/ CRISPR-Associated Proteins 9)システムによるゲノム編集技術を利用した遺伝子導入法を確立した。また、構造多様化へ向けた他起源由来の骨格構築酵素遺伝子や修飾酵素遺伝子の機能解析では、特徴的なメチル基転移酵素、環化酵素、チトクロームP450などの機能解析に成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
PKS-NRPSは、炭素鎖の伸長と修飾を厳密に制御する複数の機能単位(=ドメイン)から構成される多機能性酵素であり、その複雑な多段階反応の解析には、①個々のドメインの機能解析、②ドメイン間の相互作用の解明が必要不可欠であり、これにはドメイン交換実験が有効である。麹菌異種発現系を用いれば、生成した化合物の化学構造からドメインを交換した場合の機能の変化を類推することができる。しかしながら、初年度の検討により、所期の代謝産物を生産する形質転換体のスクリーニングが本実験におけるボトルネックとなることがわかってきた。そこで、CRISPR/Cas9システムによるゲノム編集技術を利用した遺伝子導入法を検討した(A02班との共同研究)。その結果、3kb程度のサイズの遺伝子では約70%、8kb程度のサイズの遺伝子では約50%の高効率で目的とする形質転換体を取得できることがわかった。また、機能未知生合成酵素遺伝子の解析を通して、本手法の有用性を実証した。他起源由来の骨格構築酵素遺伝子や修飾酵素遺伝子の機能解析では、放線菌由来のロンゲスチン生合成における特異なメチル基転移酵素・転移酵素、子嚢菌由来のセスタテルペン生合成における環化酵素・チトクロームP450、担子菌由来のプロイロムチリン生合成におけるチトクロームP450の機能解析などに成功した。当初は想定していなかった問題が生じたために骨格構築酵素PKS-NRPSの機能解析では若干の遅れがあるが、①遺伝子導入における問題点を解決するためのゲノム編集技術を利用した遺伝子導入法を確立したこと、②構造多様化へ向けた他起源由来の天然物生合成酵素遺伝子の機能解析では着実に研究成果が得られていること、③他班との共同研究が成果として結実していることなどから、本研究は概ね順調に進展しているものと判断している。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度に確立したCRISPR/Cas9システムによるゲノム編集技術を用いれば、形質転換体の取得効率が大幅に向上することがわかった。しかしながら、ドメイン交換実験を行う上では、形質転換体の取得効率の他にキメラ酵素発現用プラスミドの構築がもう一つのボトルネックとなる。例えば、連結様式が活性に与える影響を調べるためには複数のキメラ酵素発現用プラスミドを作成する必要があるが、その構築にも多大な時間を要する。この問題を解決するには、「プラスミド構築の過程を簡略化したより実践的な形質転換法の確立」が必要であると考えている。そこで、CRISPR/Cas9システムのもう一つの特徴である任意の位置での遺伝子切断と遺伝子導入を応用したキメラ酵素作成法を確立する。本年度は、モデル実験として、①野生株に対して染色体上の狙った位置での遺伝子導入や②既に構築した形質転換体のもつPKS-NRPS遺伝子に対するin situでのドメイン交換を検討する。 また、上述した遺伝子導入法を用いれば、他起源由来の生合成酵素(チトクロームP450、転移酵素、環化酵素など)の機能解析もより迅速に行えるようになるはずである。そこで、他班との連携を強化して、興味深い化学反応を触媒する生合成酵素遺伝子の機能解析を積極的に進める予定である。
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