2016 Fiscal Year Annual Research Report
Project Area | New expansion of particle physics of post-Higgs era by LHC revealing the vacuum and space-time structure |
Project/Area Number |
16H06491
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Research Institution | High Energy Accelerator Research Organization |
Principal Investigator |
花垣 和則 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 教授 (40448072)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
受川 史彦 筑波大学, 数理物質系, 教授 (10312795)
東城 順治 九州大学, 理学研究院, 准教授 (70360592)
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Project Period (FY) |
2016-06-30 – 2021-03-31
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Keywords | ヒッグス / 湯川結合 / 真空の構造 / LHC / ATLAS実験 / ピクセル検出器 |
Outline of Annual Research Achievements |
LHC ATLAS実験においてヒッグスボソンの研究を主導することが本研究の目的であり,研究内容は,以下の3点に分類できる。 1) 飛跡検出器であるシリコンピクセルおよびストリップ検出器の運転・保守:LHCは極めて順調に稼動し,瞬間ルミノシティは設計値の1.4倍に達し,2016年の積分ルミノシティは想定を大きく超えて40/fb近くに達した。設計値を大きく超える高輝度化で安定したデータ収集を行うために,ピクセル検出器の一部ではデータ収集システムを高帯域化したものに交換し,またストリップ検出器でもデータ収集のボトルネックを減らすためデータ経路の調整作業等を継続的に行った。その結果,データ収集効率をピクセルでは98.9%,ストリップでは99.9%に保持することができた。 2) データ解析においては,収集したデータの約半分を用いて,ヒッグスがγγ,ZZ,WWそれぞれに崩壊するモードを使い,重心系エネルギー13TeVにおけるヒッグス生成断面積を測定した。重心系エネルギー7TeVおよび8TeVでの測定と合わせて,断面積のエネルギー依存性は標準模型の予言と誤差の範囲内で一致している。また,WH, ZH, ttHという生成過程を経由しヒッグスがボトムクォーク対に崩壊する事象を精力的に探索している。現在,全データを使った解析結果を論文として纏める作業を行っている。 3) HL-LHCに向けたATLASアップグレードの一環として,シリコンピクセル検出器開発を行っている。センサー開発では,目標とする放射線耐性を達成した後,ピクセルサイズのさらなる微細化に挑んでいる最中である。また,信号読み出し用ASICにバンプボンディングしたピクセルセンサーを搭載するフレキシブル回路試作品を開発し,実機で製造に向けて,材料やレイアウトの最適化を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
LHCは設計値を大きく超えるルミノシティを達成し,そのルミノシティを無駄にすることなく極めて高いデータ収集効率を達成している。特に,ルミノシティ増大により,陽子陽子衝突地点に近いシリコンピクセルおよびストリップ検出器は,高い占有率と,高放射線環境下での運転を余儀なくされているが,本研究グループが主体となってデータ収集システムの入れ替えや繊細な調整作業を行い,大きなトラブルもなく安定した運転を続けたことは素晴らしい成果である。2016年の積分ルミノシティは当初の予定の50%を超えた。 ヒッグスに関するデータ解析はほぼ当初の予定通りの進捗であった。解析が比較的易しい終状態である,γγ,WW,ZZにおいて断面積を測定し,重心系13TeVでもその生成断面積が標準模型の予言通りであったことを実証した。また,本研究グループは,ヒッグスがボトムクォーク対に崩壊する事象について精力的に研究を進めており,ttH生成過程においては,測定誤差が大きいながらも標準模型の予言値よりも数多い事象数を観測しており,今後の解析が楽しみとなる結果が出ている。ttHにおいても,標準模型の検証が可能であることを示せたことは大きな成果である。 HL-LHCに向けたピクセル検出器開発においては,ピクセルサイズが実機よりも大きいながら試作品センサーの放射線耐性が仕様要求を満たすことを確認できたこと,ピクセルフレキシブル基板試作品1号機を製造・動作確認したことは大きなマイルストーンであった。これにより,センサー開発はピクセルサイズの微細化だけが残っている大きな課題となった。フレキシブル基板開発は着手したばかりだが,正常動作を確認できたことから次の開発テーマも定まったこと,本研究グループにとっては新たな取り組みであったことから,大きな成果であった。
以上から,当初の計画以上に進捗していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
2017年のLHCのルミノシティは2016年よりもさらに増大する見込みである。安定したデータ収集のための継続的な調整作業の他に,ピクセル検出器データ収集システムの高帯域化と,ストリップ検出器における低帯域部分の自動オンオフ機能の実装などを予定している。現在そのための準備中で,ピクセル検出器については新データ収集システムでの較正機能のデバッグおよび新機能の追加,ストリップ検出器については自動オンオフ機能の追加作業およびシミュレーションによる効果の確認等を行っている。これらの検出器の継続した安定運転のために,学生を含む複数の研究者を実験現場であるCERNに引き続き常駐させて,シリコン検出器の運転保守を主導する。
ヒッグス研究においては,2016年までに取得した重心系エネルギー13TeVの全データを使い,τやボトムクォーク,もし可能であればトップクォークも含めた湯川結合を直接測定する。そのためには,ボトムクォークジェットのエネルギースケールの測定精度の向上や,背景事象のさらなる精査,ニューラルネットワークなどの多変数解析の幅広い導入,などを試みる。いずれにせよ,これらの測定結果を纏めた論文を年度内に発表する。
シリコンピクセル検出器開発においては,50μm×50μmないしは25μm×100μmのピクセルサイズのセンサー設計を終了することが大目標である。実機ではピクセルサイズを上記どちらにするか決まっていないので,どちらの場合でも対応可能なように2種類の試作品を並行して開発していく。これに合わせて,フレキシブル基板も新たに開発し,センサーと合わせて設計をほぼ終了させる。同時に,実機の大量製造のために,精度よく短時間で安価にピクセルセンサー+ASCIをフレキシブル基板にアッセンブリーする手法の確立を目指す。
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Research Products
(27 results)