2018 Fiscal Year Annual Research Report
Project Area | New expansion of particle physics of post-Higgs era by LHC revealing the vacuum and space-time structure |
Project/Area Number |
16H06491
|
Research Institution | High Energy Accelerator Research Organization |
Principal Investigator |
花垣 和則 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 教授 (40448072)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
受川 史彦 筑波大学, 数理物質系, 教授 (10312795)
東城 順治 九州大学, 理学研究院, 准教授 (70360592)
|
Project Period (FY) |
2016-06-30 – 2021-03-31
|
Keywords | ヒッグス / 真空の構造 / 湯川結合 / LHC / ATLAS / シリコン検出器 |
Outline of Annual Research Achievements |
LHC加速器は一年を通して大きなトラブルなく順調に稼働し,ルミノシティは設計値の2倍を定常的に超えた。陽子陽子衝突点最近傍に位置するシリコンピクセルおよびストリップ検出器は,ルミノシティが高くなるほど安定したデータ収集が最も困難になるが,どちらの検出器も99.9%という高い効率でデータを収集することができた。本グループは,双方の検出器運用を実験現場で主導し,高いデータ収集効率達成の立役者となった。 ヒッグス粒子研究においては,ボトムクォークとトップクォークの湯川結合の存在をどちらも5σを超える有意度で観測することに成功した。これにより,これまでに実証されていたτの湯川結合とあわせて,(ニュートリノを除く)第3世代フェルミオンの質量起源が,WおよびZボソンの質量起源と同じヒッグス機構であることを突き止めた。つまり,測定の誤差内で,物質の根源であるフェルミオンと力を媒介するゲージボソンの両方の質量が,2012年に発見した125GeVヒッグス粒子の作る場に起因していることを示唆しており,素粒子の質量起源の全貌解明に向けて大きく前進した。実験開始当時に想定していたよりも格段に早い段階でこの結果を出すことができたのは,加速器と検出器双方が設計値を大きく越える性能を発揮していること,多変数解析など実験開始当初よりも遥かに洗練された解析手法を導入していること,などに依る。 HL-LHCに向けたピクセル検出器開発では,信号読み出し用ICとバンプボンディングされたセンサーをフレキシブルプリント基板に搭載,モジュール化する工程をほぼ確立した。モジュール化したものの動作試験システムや,検査結果を保存するためのデータベース等の構築も進め,量産に向けた準備を着実に進めた。これらの結果も含めて,ATLASグループではHL-LHC用ピクセル検出器の技術仕様書を完成させた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
LHC加速器は安定して,設計値の2倍以上のルミノシティを出している。単位時間当たりに生成される粒子数が想定の2倍を超えていることを意味するが,ATLAS検出器全体のデータ収集効率は96%を超えており,さらにそのうち,98%以上のデータが高品質で物理解析に使うことができている。このように,加速器検出器双方が設計時の想定以上の性能を発揮していることが,後述するような想定以上の物理成果に繋がっている。特に,検出器最内層のシリコン検出器は,極めて高い粒子数密度に晒されるため,データ収集が最も困難な検出器であるが,その検出器の保守運用を本グループは主導している。 物理解析については,125GeVの質量を持つヒッグス粒子が,WおよびZボソンだけでなく,τ,ボトムクォーク,トップクォークと直接結合していることを発見し,弱い力を媒介するゲージボソンと,物質の根源であるフェルミオンの質量起源が同じであることを突き止めた。標準模型が正しければ,LHCの運転期間中にいつかは実証できると考えられていたが,2018年度内の実証は,当初の想定よりも遥かに早い成果であった。本研究グループは,H→ττ崩壊,H→bb崩壊,ttH生成,全ての解析に関与し,ATLASグループ内でもその存在感を大きく示した。 HL-LHCに向けたピクセル検出器開発では,各国がモジュール製造方法を研究提案してきたが,最終的には,本研究グループの提案した手法がATLASグループ内の標準手法となることが決まった。さらに,モジュールの部材の放射線耐性や,温度サイクルに対する耐性の研究においては,本グループがATLASグループを完全に牽引して,これまでに解決されていない技術課題を次々とクリアしている。 以上により,検出器の保守運用,データ解析,HL-LHCに向けた検出器開発全ての面で,当初の計画以上に進展していると判断した。
|
Strategy for Future Research Activity |
LHCは,高輝度化(HL-LHC)に向けた準備のために,2019年および20年は長期シャットダウンを実施する。そこで,加速器が稼働しているときにはできない大掛かりな整備作業を検出器に対しても実施する。ピクセル検出器では,フロントエンドからの信号伝送に光ファイバーを用いているが,そのための光送受信装置を新しいものに刷新する。また,より高いルミノシティでもデッドタイムを発生させず,かつ,検出効率も落とさないようにするために,検出器の較正の精度を上げて閾値の最適化をさらに進める。 データ解析においては,これまでに収集した重心系エネルギー13TeVでの陽子陽子衝突全データを用いた解析結果の公表を目指す。H→ττ,H→bb,ttH全てのモードで結果を更新し,湯川結合定数の測定精度を向上させる。特にttH生成過程では,H→γγ終状態は系統誤差が小さく統計誤差が大きな解析モードなので,これまでに収集した全データを使うことで測定精度の格段の向上を望める。さらに,将来を見据えたパイロット測定として,第2世代フェルミオンとヒッグスとの結合事象を探索する。 ピクセル検出器開発では,モジュールのワイヤボンディング保護方法の確立と,バンプボンディングの熱サイクル耐性の評価が喫緊の課題である。ワイヤボンディングは当初,樹脂による保護を予定して,放射線耐性を有する部材の選定を行い,塗布手法なども確立した。しかし,熱膨張率の部材間の違いからパンプボンディングの剥離を引き起こすことがわかったので,熱膨張率の違う樹脂の選定を進めつつ,樹脂を使わずに機械的に保護する手法の確立も目指す。また,-40℃~40℃の熱サイクルを数100回繰り返すと,バンプボンディング自身が剥離することがわかったので,その原因の調査と解決法の発見を急ぐ。
|