2018 Fiscal Year Annual Research Report
金属中心キラリティーの精密制御に基づく配位アシンメトリーの新展開
Project Area | Coordination Asymmetry: Design of Asymmetric Coordination Sphere and Anisotropic Assembly for the Creation of Functional Molecules |
Project/Area Number |
16H06509
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
塩谷 光彦 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (60187333)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
馬越 啓介 長崎大学, 工学研究科, 教授 (20213481)
松下 信之 立教大学, 理学部, 教授 (80219427)
|
Project Period (FY) |
2016-06-30 – 2021-03-31
|
Keywords | 配位アシンメトリー / 金属錯体 / 非対称配位圏 / 不斉合成 / 不斉吸着 / 不斉誘導 / プロキラル分子 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、金属元素を立体制御、反応場、物性発現の場と捉え、これまで未開拓であった金属錯体における非対称配位圏の設計・合成と異方集積化法を理論・実験・計測により開拓することを目的とした。 2018年度はまず、四面体型の亜鉛およびオキソバナジウム(V=O)錯体の金属中心キラリティーの動的平衡制御と不斉触媒反応を中心に焦点を当てた。2017年度に亜鉛錯体の亜鉛中心キラリティーの制御に成功したが、今年度はこれを不斉反応に応用し、高い不斉収率を得ることができた。これは我々が知る限り、四面体型キラル金属錯体の動的平衡制御に基づく不斉触媒反応の最初の例である。また、アキラルな非対称二座配位子を用いたキラルなオキソバナジウム錯体の合成と構造決定が挙げられる。バナジウムイオンとの親和性の高いフェノール性アルコラートを配位ドナーとする非対称二座配位子を合成し、そのオキソバナジウム錯体の合成と単離に成功し、その溶液内構造と結晶構造を決定した。 これら以外に、多孔性超分子結晶の不斉空間構築、異なる多孔性超分子結晶のチャネルが連結したコア・シェル型多孔性超分子結晶内の一方向物質輸送とタンデム反応、金属錯体型人工DNAを鋳型とする金属クラスターの合成、カルベン型配位子を用いた炭素中心の金(I)クラスターの合成、金属錯体によるマルチギアシステムの非対称化と運動制御に関する研究を推進し、基本構造単位となる金属錯体の非対称配位圏構造と集積体の構造・機能相関を調べた。今年度の研究実績の一部は、国際学術誌3報に発表され、国内外で高く評価されている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
以下に、今年度の代表的な研究成果と共同研究体制を示し、本研究がおおむね順調に進展している理由を述べる。 1. 金属中心キラリティーを有する亜鉛錯体の不斉誘導および不斉反応への応用:アキラルな非対称三座配位子は、四面体型金属錯体の金属中心キラリティーを生じさせることが可能である。昨年度は非対称なキラル亜鉛錯体の平衡混合物に光学活性な単座配位子(アミノアルコール)である不斉補助剤を添加することにより、速やかに一方に大きく偏ることがわかった。この知見を基に、亜鉛に配位した不斉補助剤をプロキラルな反応試剤に置換したところ、亜鉛中心の絶対配置と光学純度が保たれ、もう一つの反応試剤との反応において90% ee近い不斉収率を得ることに成功した。 2. オキソバナジウム(V=O)錯体の金属中心キラリティーの動的平衡制御:フェノール性アルコラートを配位ドナーとする非対称二座配位子を合成し、キラルなオキソバナジウム錯体の合成と単離に成功した。その溶液内構造と結晶構造を、それぞれNMRおよびX線構造解析により決定した。 3. 多孔性超分子金属錯体の不斉空間における反応制御:多孔性超分子パラジウム錯体を用いて、ナノチャネル内に吸着したプロキラルな有機分子の分子内光環化反応を検討したところ、予想外にチャネル内のパラジウム錯体が関与するオレフィン移動反応が起こった。同位体を用いた反応や理論計算により、反応機構を明らかにした。 【領域内共同研究】2017年度に引き続き、江原G (A01)と理論分子設計、分子間相互作用および反応機構に関する理論研究を行った。 【国際共同研究】Meggers G (Germany)に大学院生を派遣し、金属中心キラリティーの構築と不斉反応に関する共同研究を行った。また、Famulok G (Germany)に大学院生を派遣し、DNA machineの合成に関する共同研究を行った。
|
Strategy for Future Research Activity |
2018年度の研究に加えて、2019年度は4名のポスドクを配置し、以下の研究実施計画を新たに遂行する。 1. 金属中心キラリティーを有する窒化モリブデンおよび窒化鉄錯体の合成と動的平衡制御:アキラルな非対称二座配位子は、四面体型窒化金属(M=N-)錯体に金属中心キラリティーを生じさせることが可能である。多くの窒化金属錯体は触媒能を有するため、不斉反応への発展が期待される。亜鉛およびオキソバナジウム錯体の結果を踏まえて、両鏡像体の動的平衡制御を試みる。 2. 多孔性超分子金属錯体の不斉空間における反応制御:多孔性超分子パラジウム錯体を用いて、ナノチャネル内で面選択的に吸着したプロキラルな有機分子(例:シトレナール等)の不斉環化反応を試みる。 3. 今年度に確立したカルベン型配位子を用いた炭素中心の金(I)クラスターの合成法を基に、銀(I)イオンやCu(I)イオンを含む構造的に非対称なヘテロ金属クラスターへの展開を図る。
|