2019 Fiscal Year Annual Research Report
Project Area | Coordination Asymmetry: Design of Asymmetric Coordination Sphere and Anisotropic Assembly for the Creation of Functional Molecules |
Project/Area Number |
16H06521
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
所 裕子 筑波大学, 数理物質系, 教授 (50500534)
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Project Period (FY) |
2016-06-30 – 2021-03-31
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Keywords | 固体物性 / 磁気特性 / 電気特性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、アシンメトリーを持つ配位化合物を構築し、磁気的および電気的な物性にアシンメトリー及ぼす効果の検討を目的としている。本年度は、チタン酸化物の一種である七酸化四チタンにおける金属-半導体転移に着目し、この物質をナノ微粒化したときの相転移挙動を検討した。物質のサイズにより相転移特性を制御する研究は、物質表面で生じる非対称性の効果という観点から、学術的にも重要な課題である。 七酸化四チタン(Ti4O7)のマイクロ結晶(バルク体)は、冷却すると、室温で高温相と呼ばれる金属相から、中間相と呼ばれる半導体相へ150 Kで転移し、さらに、130 Kで中間相から低温相と呼ばれる半導体相へ転移する。高温相はTiの電荷が3.5+の電荷非局在系の金属相であるが、中間相では電荷は3+と4+に分かれ、電荷局在系の半導体相となる。このとき3+と4+は無秩序に配置して電荷無秩序配列相と言われる。一方、低温相では3+と4+が秩序立って整列し、電荷秩序配列相となる。 本研究では、TiO2ナノ微粒子を還元焼成し、Ti4O7ナノ結晶を合成した。試料は、54nm程度の一次結晶が450nm程度の凝集体を形成していた。XPS測定より、室温ではTi3.5+の金属状態の高温相であることが示唆された。比熱を測定すると、150 Kに一本のピークが観測され、高温相から中間相への金属-半導体転移によるものと帰属された。バルク体では、150 Kと130 Kで比熱の発散ピークが観測されており、130 Kのピークは中間相から低温相への転移と帰属されている。これらの結果より、本研究で合成したナノ結晶では、高温相から中間相への相転移は発現するものの、中間相から低温相への転移は抑制されていることが示唆された。理論計算により、今回ナノ結晶で観測された一段階転移は、表面エネルギーがギブス自由エネルギーに影響して発現したことが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題は、配位構造や骨格がアシンメトリーを持つ配位磁性化合物を構築し、その構造やスピンが磁気、電気、光学特性などの物性に及ぼす効果を検討することを目的としており、これまでに、キラル構造をもつ超イオン伝導強磁性金属錯体の開発や、反転対称性の破れた結晶構造をもつ第二高調波活性な磁性酸化物の開発、立方晶骨格の空孔に非対称に配列したアルカリカチオンにもとづくテラヘルツ光吸収、アシンメトリックな結晶構造からなる磁性金属錯体における電荷移動型相転移の熱力学的理論解釈などを報告してきた。本年度は、チタン酸化物の一種である七酸化四チタンにおける金属-半導体転移に着目し、この物質をナノ微粒化したときの相転移挙動を検討した。その結果、通常の七酸化四チタンのバルク体は二段階転移を示すが、本研究で合成したナノ結晶では、一段階転移を示すことを見出した。この現象は、平均場モデル計算により、表面エネルギーがギブス自由エネルギーに影響を及ぼすことにより発現したことが示唆された。 これまで主として金属錯体磁性材料を対象物質として研究を推進していたなかで、本年度は、本研究で得た基礎的知見を金属酸化物系へと展開し、また表面の非対称性の効果を利用することで、七酸化四チタンにおける一段階転移を実現し報告した。この成果は、当初の計画以上と位置付けられる。一方で、昨今の感染症対策により、計画していた実験測定が次々に停止となり、研究の進展に影響がでている状況である。総合的に、おおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに、超イオン伝導性キラル強磁性錯体の開発、反転対称性の破れた結晶構造をもつ磁性酸化物の開発、構造中に非対称に配列したアルカリカチオンのテラヘルツ光吸収、反転対称性の破れた結晶構造からなる電荷移動型相転移磁性錯体における理論解釈などを報告してきた。今後は、分子磁性材料としては比較的高い磁気相転移温度を示す磁性金属錯体を合成し、合成した物質の格子振動や結晶構造の温度依存性を詳細に調べ、スピン間の相互作用と、非調和フォノンにもとづく熱膨張特性との相関を検討していく予定である。さらに、対称性が破れた表面を有する磁性金属錯体薄膜材料の表面構造を詳細に調べ、表面構造と磁気秩序の関係についても詳細に調べていく予定である。
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