2016 Fiscal Year Annual Research Report
Regional Integration from a Political Economic Perspective
Project Area | Establishing a new paradigm of social/human sciences based on rerational studies: in order to overcome contemporary global crisis |
Project/Area Number |
16H06548
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
石戸 光 千葉大学, 法政経学部, 教授 (40400808)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
落合 雄彦 龍谷大学, 法学部, 教授 (30296305)
池田 明史 東洋英和女学院大学, 国際社会学部, 教授 (30298294)
水島 治郎 千葉大学, 法政経学部, 教授 (30309413)
畑佐 伸英 名古屋経済大学, 経済学部, 教授 (40363791)
鈴木 絢女 同志社大学, 法学部, 准教授 (60610227)
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Project Period (FY) |
2016-06-30 – 2021-03-31
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Keywords | 地域統合 / 関係性 / 政治経済的 / 階層性 / 複雑性 / 民主主義 / ポピュリズム / 分断 |
Outline of Annual Research Achievements |
政治経済的地域統合のマクロ的な現状形成の要因として、さらに下部階層のメソ・ミクロ的主体間(例えば企業間、政治的集団間、民族間)の関係性に着目することで、統合の阻害要因を詳細に分析した。年度前半には地域統合の阻害要因と関係性に関する個別論文執筆を共同で開始し、これを受けて、11月には東南アジア諸国連合(ASEAN)の関係性分断の要因分析を主題に国際シンポジウムを開催し、所得格差、政治信条の違いおよび国内の諸民族間の差異性が政治経済的地域統合の分断要因となっている点を検証した。同シンポジウムでは、ASEAN開発のための国際機関代表、日本における政治難民第1号の方および在日ミャンマー人・留学生らを招聘し、シンポジウムでの登壇およびセミナー開催を行った。これらの成果を年度末に研究図書として刊行した。またASEANの一国・ミャンマーに注目し、同国の軍政時代に民主化を画策しアウンサンスーチー氏と対話の窓口を務めたキンニュン元首相と首都ヤンゴンにて面談を行い、ミャンマーの「民主化ロードマップ」およびいわゆる「ロヒンギャ問題」(ミャンマー国内の「難民」もしくは認定されていない「少数民族」の扱いを巡る課題)について聴取を行い、関係性の考察を開始した。 さらに、いわゆる「ポピュリズム」の世界規模での台頭について研究メンバーが研究書籍を刊行し、「グローバル関係性」構築のための重要な研究努力を行った。アジア太平洋地域(南シナ海の国境問題を含む)およびアフリカ地域における地域統合・開発を巡る関係性に関するセミナーも開催し、来年度に刊行予定の階層的関係性を重視した研究のための準備を行った。またAPEC、日本ASEANセンター、東アジア・ASEAN経済研究センターなどの国際機関、および日本の外務省、経済産業研究所等からの共同研究依頼を受けて、企業レベルの関係性に関する統計分析を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
政治経済的地域統合の阻害要因と促進要因を新たな概念構築と事例分析の双方により進めている。概念的な面においては、「関係性」と階層構造の「メタ理論」について考察している。階層構造とは、いくつかの層が入れ子となった構造を意味し、個人→家計→民族や地方自治体→国家→国家統合体→政治経済的地域統合体といった各層の主体間および内部における相互作用を意識的にとらえて地球全域を考察の対象として分析中である。 地域統合を巡る議論には、所得、民族、宗教などの諸側面において階層的な主体間の関係性が「慣性力」として存在するが、ある層での主体間の「粘着力」が低くなると、上位の層における社会的「乱流」状態に至り、それが移民や難民、テロや経済危機といった形で表現される状況に至る、ととらえることができる。社会的な「慣性力」と「粘着力」とは深く関係している点を注視して考察を行っている。「一国第一主義」という「慣性力」が国家を構成する業界・市民団体や企業同士のつながり、すなわぎ「粘着力」の弱いところで分断されてしまう状況は、たとえば米国のトランプ政権と環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の成否、および国内の所得格差是正を巡る論戦のありようについての考察にそのまま援用可能と思われる。今後はさらに地域統合をめぐる「ミクロ」「メソ」「マクロ」の「階層性」を考慮した主体間の「関係性」について、ASEANを巡る地域統合(ミャンマーにおける国家統合の動向を含む)や日中韓の東アジアにおける地域統合の可能性(朝鮮半島の統一問題も含む)などを事例に、さらに具体的な研究をしている。分析手法的には、質的差異を伴った主体間の関係性を分析するための新たな統計手法である「マルチレベル分析」、および質的な解析として、経済・社会体制(冷戦下の東西対立を含む)に関する言説分析のためのソフトを活用し、関係性のマッピングを試みている。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き社会的関係性の理論構築に向けて引き続き検討を行う。地域経済統合による関税削減、投資および人の移動の自由化は、一義的には、2つまたは複数の主権国家同士における何らかのリクエスト(権利主張)とオファー(譲歩)の一致により妥結される。また地域経済統合圏の内では、財・サービスの貿易を行う主体としての企業同士の相互作用が行われており、地域統合に関する政策形成の成否やグローバルな経済環境に影響を与えている。国や企業の間の関係性は複雑であるが、来年度は関係性の経済学モデルを複雑性(非線形性)の視点より解析し、道徳感情の根源と関係性についても心理学的側面を参照しながら考察する。全体として、社会的関係性の理論構築に向けた展望を行うこととしたい。 より具体的には、例えばアジア太平洋地域におけるASEAN、RCEP、TPPなどの「コミュニティー」の重層的な地域経済統合は相互に与える緊張関係の源泉となっており、また基本的価値(民主主義、人権の尊重)や思想・宗教的な「差異性」は、当該コミュニティーのアイデンティティーに深く根差しているため、政治経済的地域統合の安定化と不安定化の境をなす「臨界点」に達しやすい事象であると考えられる。そして臨界点においては、「感受率(揺らぎの影響度)」が大きく、貿易摩擦や産業団体からの政策支持・不支持の表明、地域的なデモなど、小規模の「揺らぎ」がシステム全体の揺らぎへと拡大することにつながる。サブシステムにおける一定程度までの多様性は「比較優位」として国家間の地域統合にプラスの影響を及ぼすことと想定されるが、ある「臨界点」に達するほどの多様性は当該地域統合システムの不安定化につながり、新たなシステムの創発を要請することとなるように考えられ、この点に関する考察を欧米・中東・アフリカおよびアジア太平洋地域の事例に着目しながら深める予定である。
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Research Products
(48 results)