2019 Fiscal Year Annual Research Report
報酬と注意の情報処理に関与するドーパミン神経回路機構
Project Area | Correspondence and Fusion of Artificial Intelligence and Brain Science |
Project/Area Number |
16H06567
|
Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
松本 正幸 筑波大学, 医学医療系, 教授 (50577864)
|
Project Period (FY) |
2016-06-30 – 2021-03-31
|
Keywords | ドーパミンニューロン / 眼窩前頭皮質 / 意思決定 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究代表者らの最近の研究は、報酬系の中枢として注目されているドーパミンニューロンが、これまで考えられてきたような報酬情報を伝達する一様な集団ではなく、報酬情報を伝達するグループと、報酬に限らず、罰刺激など、動物の行動にとって重要な刺激のsalience(顕著性)に関わる情報を伝達する少なくとも2つのグループに分かれることを報告した。本研究では、このように多様なドーパミン神経シグナルの役割を明らかにすることを目的とする。これまでに、2頭のマカクザルに行動抑制課題と価値に基づく意思決定課題を訓練し、サルが課題をおこなっている間に、ドーパミンニューロン及びドーパミンニューロンから投射を受ける脳領域から神経活動を記録した。平成31年度は、特に意思決定課題において、2頭のサルのドーパミンニューロンと眼窩前頭皮質から神経活動を記録し、ドーパミンニューロンが、これまで報告されてきた選択肢の価値に関わる信号だけではなく、動物の選択行動そのものに関わる信号をコードすることを明らかにした。そしてこれらの信号のダイナミクスは、価値信号を選択指令に変換するプロセスに一致していた。さらに、同様の信号ダイナミクスは、意思決定の中枢として注目されている眼窩前頭皮質でも見つかったが、ドーパミンニューロンの信号ダイナミクスの方が、より早く選択指令への変換を終えていた。選択行動を反映したドーパミンニューロンの活動は、選択行動に付随する運動によって惹起された可能性もあるが、コントロール実験の結果、単純な運動によってはドーパミンニューロンの活動上昇が生じないことを明らかにした。以上の結果は、ドーパミンニューロンが意思決定における価値から選択への変換プロセスにとって、眼窩前頭皮質と同等かそれ以上に重要な役割を果たしていることを示唆する。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では多様なドーパミン神経シグナルの役割を明らかにしようとしているが、すでに行動抑制課題においては行動抑制に関わる役割を、意思決定課題においては価値信号から選択指令への変換プロセスにとって重要な役割を果たしていることを明らかにした。行動抑制に関わる研究はNeuron誌に掲載済みであり、意思決定に関わる研究についてもデータを論文にまとめて投稿中(under minor revision)である。それぞれの研究は、報酬系の中枢として注目されているドーパミンニューロンの“報酬以外”の役割を世界に先駆けて明らかにしたものであり、ドーパミン神経系の異常によって生じる精神・神経疾患の病態を理解する上で重要なデータとなり得る。そして現在は、報酬以外に関連したドーパミン信号が、どのようなメカニズムによって動物の行動を制御しているのかを神経回路レベルで理解するための数理モデルを用いた研究が進行中である。以上から、本研究はおおむね順調に進展していると言える。
|
Strategy for Future Research Activity |
これまでに、行動抑制課題と意思決定課題を複数頭のサルに訓練し、それぞれの課題を実行しているサルのドーパミンニューロン及びその関連領域から神経活動を記録してきた。そして、特に意思決定課題においては、ドーパミンニューロンが、これまで報告されてきた選択肢の価値に関わる信号だけではなく、動物の選択行動そのものに関わる信号をコードすることを明らかにした。そしてこれらの信号のダイナミクスは、価値信号を選択指令に変換するプロセスに一致していた。さらに、同様の信号ダイナミクスは、意思決定の中枢として注目されている眼窩前頭皮質でも見つかったが、ドーパミンニューロンの信号ダイナミクスの方が、より早く選択指令への変換を終えていた。今後の研究の中で、ドーパミンニューロンや前頭眼窩皮質の信号がどのようなメカニズムによって価値から選択指令に変換されているのか、また、これらの信号がどのようなメカニズムによって動物の行動に影響を与えているのかを、数理モデルを用いて解析する。具体的には、動物の選択行動を説明するための強化学習モデルを構築して、どのような情報が動物の選択行動を規定しているのかを明らかにする(たとえば過去の報酬履歴や動物の選択履歴など)。そして、これらの選択行動に必要な情報が、ドーパミンニューロンや前頭眼窩皮質ニューロンによってコードされているのかを検討する。
|