2016 Fiscal Year Annual Research Report
Mathematical Modeling for Signal Transmission Pathways inside the Cells
Project Area | Integrative understanding of biological signaling networks based on mathematical science |
Project/Area Number |
16H06576
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
鈴木 貴 大阪大学, 数理・データ科学教育研究センター, 特任教授(常勤) (40114516)
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Project Period (FY) |
2016-06-30 – 2021-03-31
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Keywords | 数理腫瘍学 / 数理モデリング / 信号伝達経路 / ハイブリッドシミュレーション / 非線形数学解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
ストレス応答経路の減衰振動について数値シミュレーションと力学系理論を用いて数学解析を行った。古典モデルでは定常状態からのホップ分岐によって周期軌道が生成されるものの軌道不安定であり、数値シミュレーションによる再現性が得られないことが明らかになった。一方リン酸化を考慮した改良モデルでは、ストレスシグナルが時間的にゆっくりと変化する間にホップ分岐が起こり、安定な周期軌道が遷移的に発生することを解明することができた。次に非古典経路の数理モデリングを行い、パラメータの変動に対して鋭敏な変動を与えるキーパスを特定した。特にキーパスのリモデリングによって実験で得られた3つの時系列パターンが再現されることを数値シミュレーションで再現することができた。細胞膜分子METに由来するといわれていた薬剤耐性機序について数理モデルを構築し、計測値と次元解析を用いてパラメータ同定を行って実時間での数値シミュレーションを行った。さらに新たな実験値を組み込んで数値シミュレーションを行った結果、薬剤耐性獲得がMET依存的でないという仮説が得られ、細胞生物学実験によって仮説の検証を行った結果、ポジティブな結果を得た。MT1-MMPプロテオリシス依存的な悪性化機序については細胞膜分子の相互作用を数理モデル化し、数値シミュレーションによって生物学実験による知見を正当化することができた。次いで下流へのシグナル伝達についてシステムバイオロジーのツールを適用し、必要なモジュールをリモデリングして拡大モデルを構築した。その上で数値シミュレーションを行い時系列で特徴的な分子をいくつかリストし、そのリストに基づいてRPPAデータ取得実験を行った。血管新生については動脈移植依存的な実験値を分析し、走化性パラドクスと結びつけた数理モデルを構築した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ストレス応答経路の減衰振動について数値シミュレーションと力学系理論を用いた数学解析では、数式処理ソフトによって定常解の存在、非存在を厳密に証明できたので、局所力学系理論によって周期軌道が生成されること、また大域理論によって古典モデルの軌道不安定性とリン酸化を考慮した改良モデルでは安定な周期軌道が遷移的に発生することを解明することができた。非古典経路については先行研究のない、初めての数理モデルであり、感度分析によって数理的にキーパスを特定し、実験で得られた3つの時系列パターンを得たことは、再現性という生命現象特有のメカニズムに迫った知見で、実験へのフィードバックが期待できる。また細胞膜分子METに由来するといわれていた薬剤耐性機序について、実験、計測、モデル、パラメータの総合的な分析によって薬剤耐性獲得がMET依存的でないという、想定していた通りの結果が得られた。MT1-MMPプロテオリシス依存的な悪性化機序についても細胞膜分子の相互作用、下流へのシグナル伝達、RPPAデータへの反映という研究のプロセスが得られ、生物統計によるデータ駆動型モデルとの協働の方向性を得ることができた。血管新生についても、走化性パラドクスに関する先行研究の修正によって実験による新しい仮説と一致するモデルが得られた。
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Strategy for Future Research Activity |
ストレス応答非古典経路についての数値シミュレーションを数学的に検証した上で、数理モデルによるキーパス予測をより確かなものとする。その上で細胞生物学実験を行って予測を確認する。上流からのシグナルが下流に伝達される過程で引き起こされる膜分子と裏打ち分子の相互作用について、リン酸化とともにユビキチン化の知見を組み込んだモデルを構築し、実験系研究室と共同で細胞分子発現のメカニズムを解明する。細胞接着に関わるMETの研究ではシグナル伝達が細胞変形にフィードバックされるメカニズムについて実験による知見を集め、数理モデリング法を分析する。MT1-MMPプロテオリシス依存的な悪性化機序解明では生物統計学の手法を用いてRPPAデータ解析を開始し、クラスタリング、回帰分析によって病態予測ができる数理的方法を確立する。次に数理モデルでのパラメータについて感度分析を行ってキーパスを特定し、患者のクラスタリングを裏付ける理論を構築した上で、最適治療戦略や創薬に展開する手法を確立する。動脈移植依存的な血管新生機序解明研究では、走化性パラドクスの数理モデルをより詳細に数学解析し、観察データを裏付ける仮説を提示する。さらにその仮説に基づいてブール変数による2値化、適合型離散スキームなどの手法を駆使したハイブリッドシミュレーションを展開して、ビボ実験では観察できない詳細な生命動態を視覚化する。
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Research Products
(19 results)