2017 Fiscal Year Annual Research Report
Project Area | Transomic Analysis of Metabolic Adaptation |
Project/Area Number |
17H06306
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
鈴木 穣 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 教授 (40323646)
|
Project Period (FY) |
2017-06-30 – 2022-03-31
|
Keywords | トランスクリプトーム / エピゲノム |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究計画班では、本研究領域のすべての研究班に対して次世代シークエンス解析設備および一連の鋳型調整技術、一次情報解析技術を提供する。同時に本研究班でも独自にがん細胞の薬剤応答時の代謝アダプテーションにおける多様性を解明するための基盤技術を開発、実践を行う。特に遺伝子発現制御に焦点をあて、トランスクリプトーム、エピゲノム解析を高効率化し、オーミクス薬剤摂動応答について体系的なデータ産出を試みる。取得されるデータを起点として各オーミクス階層をまたぐ情報解析モデルを構築する。データ駆動的アプローチによる本中規模実データ産出/解析系の実践により、代謝アダプテーションの実体である遺伝子発現プログラムの可塑的変化についての分子機序を明らかにすることができると考えている。 今年度、本研究領域他班において取り組まれている糖代謝関連研究(黒田班)および免疫担当細胞関連研究(岡田班)に対して領域内共同研究の形で、エピゲノム解析、トランスクリプトーム解析について合計20件の次世代シークエンスデータ産生を行った。また来年度以降のより大規模なトランスオーミクスデータ産生に向けて、より多くの解析系において、その材料収集、加工、およびデータ解析についての具体的な実験計画の策案を行っている。特に、今年度、岡田班において試行的に開始したシングルセルにおける多層オーミクス解析は、領域内の他の解析系についても逐次、応用する予定である。さらに、当班が独自に行っているハイスループット薬剤摂動系の構築については、下記に示すように予備的研究をより発展させる形でのデータ産生、データ解析を今年度完了することができた。こちらについては、現在、論文投稿にむけての最終確認を行っている。また得られたデータを再解析することで、その他の代謝関連遺伝子発現制御モジュールの制御について潜在的な能力を有する化合物の選定を進めている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当研究班の独自研究として、肺腺がん細胞株パネルを用いたハイスループット薬剤摂動時の多層オーミクス解析を進めている。予備的研究期間を経て、実験系の構築および安定的なデータ産生を開始することができた。これまでに96種類の化合物刺激条件についての合計3,240のRNA-seqライブラリー、3,393 のATAC-seqライブラリーの構築とシークエンスデータ産生および1次データ解析を完了している。化合物は、標準的な分子機能阻害試薬、分子標的抗がん剤、その他の疾患に用いられる承認薬を中心に選択されたものである。簡易的ではあるが、十分なシークエンス深度と再現性をもって、薬剤摂動後の多層オーミクスデータを取得できた。データは共発現ネットワークモジュールの形で整備した。抗がん剤設計の観点から望ましい薬剤摂動パターンを惹起するモジュールを選別した。75種類の代表的なモジュールのうち、転写因子NRF2をコア因子として細胞内酸化還元系の一連の代謝関連酵素の発現量を制御するモジュールに着目して、より詳細な解析を行い、抗リューマチ薬であるAuranofinが効率的にこのモジュールを制御できる潜在能力があることを明らかにした。本薬剤が制御することのできないサブネットワークについて、エピゲノム阻害薬を補完的に用いることで全体としての効果が期待できることを明らかにした。公共のがんゲノムデータベースTCGAを用いて、臨床がん検体における発現情報、ゲノム情報を指標に同一のプロファイルを示す症例を検索したところ、数%の肺腺がん症例において本薬剤を用いた治療により、効率的ながん増殖阻害を行うことができる可能性が示唆された。興味深いことに食道がん等の他のがん種においても類似性を示すプロファイルを持った症例が存在し、さらなる適応範囲の拡大が示唆された。得られた知見については、論文投稿に向けての最終確認を行っている。
|
Strategy for Future Research Activity |
鈴木先生記載本研究班では、引き続き領域全体への次世代シークエンス解析設備の提供、および、肺腺がん培養細胞パネルのトランスクリプトームとエピゲノムの薬剤摂動応答データの取得を行う。次世代シークエンス解析設備の提供については、従来、汎用的に用いられてきたバルク細胞集団に対するRNA-seq、ATAC-seqおよびChIP-seqに加えて、シングルセル解析についても同一の支援を提供する枠組みを構築する。また、近年、注目を集めるCROP-seqによるシングルセルプラットフォームを駆使した遺伝子スクリーニング系についての基礎検討を行い、可及的速やかに領域内での研究対象系における解析を可能とする。 独自に開発を行っているハイスループットでの薬剤プロファイリング系については、微視的視野からの薬剤摂動時の細胞集団内トランスクリプトーム応答の多様性を解析することを目的に、薬剤摂動時のがん培養細胞に対して10x Genomics社のChromiumシステムを用いたシングルセル解析を試行する。がんは腫瘍細胞だけでなく、周囲の間質細胞からなり、複雑な微小環境を構成している。瘍内不均一性は、がんの治療抵抗性や転移、再発などに関わっているとされている。間質細胞についても同様の解析を行うことを可能にすべく、実験系の開発を行う。主にトランスクリプトームを中心に各種細胞集団におけるシングルセルシークエンス解析を開始する。統合的にがん細胞の多様性の理解と、それぞれの集団に対する制御法の解明に向けて、技術基盤の確立を目指す。昨年度と同一の肺腺がん培養細胞系を用いて細胞採取条件、ライブラリー構築条件についての最適化を行う。得られたデータについてtSNEによるクラスタリングにより細胞多様性を記載する。特に、バルク細胞解析結果より同定された遺伝子発現制御モジュールについては、細胞間での多様性について詳細に検討を行う。
|