2017 Fiscal Year Annual Research Report
Development of mimic biological systems for multimolecular crowding and functional materials working in cells
Project Area | Chemical Approaches for Miscellaneous / Crowding Live Systems |
Project/Area Number |
17H06351
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Research Institution | Konan University |
Principal Investigator |
杉本 直己 甲南大学, 先端生命工学研究所, 教授 (60206430)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
三好 大輔 甲南大学, フロンティアサイエンス学部, 教授 (50388758)
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Project Period (FY) |
2017-06-30 – 2022-03-31
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Keywords | 定量的解析 / 擬似細胞内環境 / 核酸 / セントラルドグマ / 遺伝子発現の制御 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では細胞内の分子夾雑な環境における生体分子の相互作用を定量に解析し、得られた定量的パラメータを基に生体反応を合理的に制御する技術の開発を目指す。そのために、特に生命の遺伝情報を担う核酸に着目し、次の二点を遂行する。 (1) 細胞環境の化学模倣実験系の構築:細胞の生体分子の物性や形状を模倣した合成分子を用いて細胞模倣実験系を構築する。 (2) 細胞における生体分子の定量的機能―環境定量相関(QFER)の解明:上記実験系を用いて、核酸の構造安定性や機能と環境因子の定量的相関関係を解明し、セントラルドグマに関与する核酸の機能を合目的的に制御する。 本年度(平成29年度)は、夾雑分子(ポリエチレングリコール(PEG)、デキストラン等)を用いて細胞模倣実験系を構築し、がんや神経疾患に関わる領域のDNAの構造や安定に及ぼす影響を解析した。その結果、夾雑分子は、DNAの標準構造である二重鎖の全体構造には影響を与えず、二重鎖内のワトソン・クリック塩基対を不安定化し、ミスマッチ塩基対は不安定化しないことがわかった (Biochem. Biophys. Res. Commun., 496, 601 (2018))。一方、夾雑分子は非標準構造であるDNA四重鎖のトポロジーを変化させ(Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A., 114,9605 (2017))、四重鎖の熱安定性を大きく安定化させることを見出した (J. Am. Chem. Soc.,140,642 (2018))。さらに、QFERの解明を目指し、細胞内において転写、翻訳反応過程を定量的に解析する手法を開発し、細胞内における核酸構造の重要性を示唆する知見を得た (J. Am. Chem. Soc., 140,642 (2018))。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、上述した(1)の分子夾雑環境が核酸構造に及ぼす影響について解析を行った。その結果、核酸の構造によって異なる夾雑分子の影響をエネルギーレベルで解析し、データベースの構築に着手することができた。さらに、得られた知見を基に、夾雑環境下における核酸構造が複製、転写、翻訳に及ぼす影響を解析し、夾雑環境下における核酸構造の機能についても明らかにすることができた。具体的には、がん遺伝子中の四重鎖構造という特殊な構造がDNA複製反応を効率的に阻害し、その阻害効果が、四重鎖のトポロジーによって異なることを見出すことができた(Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A., 114, 9605 (2017))。さらに、細胞のがん化とその進行に伴う細胞内の夾雑環境の変化(カリウムイオン濃度の低下)に注目し、カリウムイオンとの結合によって構造が安定化する四重鎖が、がん遺伝子の転写量を制御していることを見出した(J. Am. Chem. Soc., 140,642 (2018))。これらの研究成果は、米国化学会誌「Journal of the American Chemical Society誌」2018 年1月17日号の表紙(Supplementary Journal Cover)に掲載され、新聞各紙(2017年10月25日付神戸新聞、2018年1月29日付日刊工業新聞、2018年2月21日付神戸新聞)朝刊に取り上げられた。以上の研究成果から、本研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は細胞環境の化学模倣実験系を構築するため、細胞内分子クラウディング環境下における核酸の構造や機能を解析した。平成30年度は、細胞環境の化学模倣実験系のさらなる精密化を目指し、また、QFERの解明を行うため、細胞内における核酸構造制御技術の構築に着手する。 具体的には、細胞内環境を模倣するため、生体高分子、代謝産物、浸透圧調節分子などを共存溶質として水溶液中に添加し、細胞質や核、ミトコンドリア等の細胞小器官内部分子環境を模倣した細胞模倣実験系を構築する。まず、分子夾雑な環境である細胞模倣実験系内で、核酸の構造や機能を熱力学的・速度論的に定量解析し、細胞内環境下における核酸構造や機能を予測するデータベースを構築する。さらにこれらの細胞模倣実験系は、領域内研究の分子夾雑プラットフォームとして領域全体に供し、機能性分子やナノバイオデバイスの機能を評価するための指針を提供する。 さらに、データベースを活用し、細胞内で非標準構造の形成を制御するために最適な小分子等を選定する。この小分子等をin vitroの転写・翻訳系、及び疾患モデル細胞に添加し、核酸非標準構造の制御を介したセントラルドグマの制御技術の構築を試みる。つまり、進行度合いの異なるがん細胞内で形成される四重鎖構造の形成を細胞内因子や小分子等で制御する。さらに、疾患により多量に発現するmRNAに非標準構造を誘起する小分子を添加し、mRNAを特異的に可視化・切断する技術の開発等を行う。細胞内の化学環境変化に応答した核酸構造を解析するために、次年度は蛍光顕微鏡を導入し、実験作業を効率化する。
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