2019 Fiscal Year Annual Research Report
Development of Crystal Potential of Metal Complex and Mechanism Analysis of Polymorphic Transition Phenomena
Project Area | Soft Crystals: Science and Photofunctions of Easy-Responsive Systems with Felxibility and Higher-Ordering |
Project/Area Number |
17H06373
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Research Institution | Toyohashi University of Technology |
Principal Investigator |
後藤 仁志 豊橋技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (60282042)
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Project Period (FY) |
2017-06-30 – 2022-03-31
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Keywords | 結晶力場 / 有機金属錯体 / 結晶多形探索 / 結晶構造予測 / 動的反応座標解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、ソフトクリスタルが示す様々な新奇現象を理論的に解析するため、金属錯体を扱える結晶力場ポテンシャルを開発すると伴に、有機金属錯体の結晶多形探索を活用し、相転移現象のメカニズム解析を行っている。 (1)A03-02班との共同研究として,π電子系のUV/CDスペクトルを求めるため,半経験的分子軌道法であるSCF-CI-DV法において、外部の部分電荷によるクーロン相互作用を導入した新たな手法を開発した。これを用いて、金属錯体やイオンを含む系の結晶中に存在する分子に適用できるようにした[17th International Conference on Chiroptical Spectroscopy, Pisa, Italy, June 23-27, 2019]。 (2)領域外研究ではあるが,結晶構造予測法によって創出された結晶多形構造の回折パターンと,実験で得られた粉末X線回折パターンを比較することによって,膨大な候補多形構造の中から実際に観測されている結晶構造を速やかに特定する方法論を確立した。 [Scientific Reports 10, 2524 (2020)]。 (3)A01-02班との共同研究において,テレフタルアミド(TPA)の結晶ポテンシャルエネルギー面を解析し、有機超弾性現象の過程で現れるα-β相間の多形転移を伴う分子配列と分子間相互作用ネットワークの変化を明らかにした。 (4)A01公募班との共同研究として,軸分子とクラウンエーテルによるロタキサン形成時の協同効果について、量子化学計算を元にその原因を解析している。また、結晶構造未知のロタキサンでのクラウンエーテルの配座探索を行い、安定構造を特定した。 (5)A02-02班との共同研究において,色素連結型アダマンチリデンアダマンタン 1,2-ジオキセタン(1-synと1-anti)の結晶の熱力学的安定性を評価した。その結果、1-anti結晶は1-syn結晶に比べエネルギー的に安定であることが理論的に明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
弱い外部刺激によって結晶構造とその物性が変化するソフトクリスタル現象は, 単位格子内のナノスケールで起こる分子の変化(微視的変位)が,単位格子の変形が結晶全体に広がるマクロな変化(巨視的変位)として現れる特異的な現象である。X線や電子線回折による結晶構造解析では局所的平衡構造しか観察できないため,「ソフトクリスタル現象の学理の解明」には,構造最適化による結晶ポテンシャルの局所的極小点を求める既往の結晶計算法の適用に加えて,微視的変位と巨視的変位を繋ぐ新しい計算技術が必要である。 本研究では,現在,領域内で12件もの共同研究の課題を進めており,すでにいくつかの成果は論文や国際会議で発表している。例えば,A03-02班の長谷川等との共同研究では,外場の効果を取り入れたSCF-CI-DV法を開発し,ランタニド系列を含む有機金属錯体の固体CDスペクトルのシミュレーションに成功した。このことは,この分野のトップコンファレンスであるCD2019でも評価された。一方,A01-03班の尾本らとの共同研究では,サーモサリエント効果を示すジシラニルマクロ環の理論研究を進め,論文投稿中である。また,A01公募班の酒田等との共同研究では,ロタキサン形成の協同効果に関する理論計算を開始し,結晶構造未知のロタキサンの結晶内配座の探索を行い、より安定な結晶構造を特定している。さらに,A02-02班の松橋等とは,ソフトクリスタル化学発光基質の結晶状態の熱力学的安定性解析に関して共同研究が進行している。 研究者相互のインタラクションに基づく新たな学問領域の創成の場として,本新学術領域研究「ソフトクリスタル」は,きわめて高次元に進行しているといえる。特に,理論的なアプローチを提供する我々の研究班は,他の実験班のハブとなるよう心掛けており,有意義な多くの共同研究が進展している。新たな学問領域の形成に向けて大きな役割を果たせると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度までに12件の共同研究を進め,そのうち2件(3報)については論文発表,および4件の国際会議発表を行った。今年度(令和2年度)は,すでに論文1報を投稿中であり,2報の投稿を準備している。また,2件の国際会議発表を予定している。その他の共同研究についても,すでに多くの研究成果があり,順次,論文発表を行う予定である。特に,A01-03班の尾本らとの共同研究は理論解析が終了し,現在投稿中の論文は,ジシラニルマクロ環のサーモサリエント現象を初めて理論的に解析し,学術的意義の高い内容となっている。 また,昨年度末に追加予算措置よって高速計算設備を増強したことによって,新たな共同研究を2件,開始することができている。その一つ,A01公募班の井口弘章氏(東北大学)との共同研究では,水蒸気曝露による相変化を示すNi(III)錯体の結晶構造に関して,粉末X線回折パターンしか得られていない結晶構造を理論的アプローチによって決定するよう,新たな結晶構造探索研究を進めている。また,A01公募班の林正太郎氏(高知工科大)との共同研究では,機能性弾性有機結晶の理論的解析を進めている。これは,A01-02班高見澤氏が発見した有機超弾性を示すテレフタルアミド結晶と同様に,結晶中における配座変換とパッキングの変化が密接に関わっていると考えている。 これら新たな共同研究を進めるとともに,A01-01班加藤等のベイポクロミズムに関する相転移現象に本格的に取り組む。試行錯誤を伴う難題が予想されるが,結晶内を動く気体分子の統計的解析を試みる。 最終年度(令和3年度)は,これまでの進めてきた多くの共同研究をまとめることに,多くの時間を費やすことになる。特に,研究期間内に開発してきた様々な方法論の検証と計算結果の妥当性の検証を改めて徹底し,ソフトクリスタルの実用化に向けた次なるステップを強力に支援できるよう準備する。
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