2018 Fiscal Year Annual Research Report
脊索動物胚発生の分子発生システムゆらぎ測定と進化的保存性
Project Area | Evolutionary theory for constrained and directional diversities |
Project/Area Number |
17H06387
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
入江 直樹 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 准教授 (10536121)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
上坂 将弘 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, 研究員 (20756499)
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Project Period (FY) |
2017-06-30 – 2022-03-31
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Keywords | 進化可能性 / EvoDevo / 発生拘束 |
Outline of Annual Research Achievements |
個体発生と系統発生の関係性として、従来は、発生の最初期が最も祖先的であるだろうという仮説が漠然と信じられてきた。von Baerの発生第三法則やヘッケルの反復説などにルーツを持つ仮説である。近年の研究ではこれらの仮説は支持されず、「発生の途中段階(特に器官形成期)」が強固に保存されているとする発生砂時計モデルが支持されている。 一方で、なぜ「発生の途中段階」がこのように限られた多様性しか示さないのかについては、自然淘汰や中立説などの従来の進化理論では十分な説明ができておらず、その進化メカニズムも不明のままである。それが解明されれば、「ボディプラン」と呼ばれる解剖学的特徴が数億年以上にわたって変化してこなかったという進化的事実が説明される可能性があり、さらには、進化学に「進化の方向性や制約」という新たな視点を加えることができると期待できる。本課題では、器官形成期が保存される仕組みだけでなく、発生の初期や後期が多様化した仕組みについても解明を目指している。今年度は、器官形成期以降に生じる遺伝子制御配列(ATACseqにより推定)の進化的傾向について脊椎動物を対象に探ってみたところ、発生の遅い時期ほど進化的に新しい制御領域を用いているという法則性がみえてきた(Uesaka et al. bioRxiv 481309)。これは、von Baerの発生第三法則と砂時計モデルの融合型モデルとも言え、器官形成期以降に多様化する際にも何かしらの制約がある可能性を意味している。器官形成期はこうした制御領域多様化法則の開始点である可能性もあり、今後さらなる研究が期待される。加えて、器官形成期に生じる揺らぎの測定に関しても順調に実験系構築・技術基盤構築を進めており、すでに揺らぎ応答進化理論との整合性の検証が目前となっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
器官形成期以降の多様化の仕組みについて、何らかの進化的法則性があることはこれまで確認されておらず、意外な発見であった。揺らぎ測定系についても首尾よく構築が進んでおり、計画書通り順調に研究が進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
発生過程では、ドミノ倒しのように様々な構造が構築されていき、時間的に先行する構造や細胞集団に大きく依存する。これは、分子シグナルでみても同様である。この観点からすると、発生の初期段階が保存されそうに思えるが、実際の進化を通して最も保存されているのは、発生の最初期ではなく、途中段階の器官形成期だ。しかし、なぜ発生の途中段階が保存されるのかはわかっていない。1つの有力な可能性として、器官形成期はほんのわずかな変更でも胚致死となってしまい、淘汰されるという仮説があったが、我々の昨年度の研究によりこの可能性は否定された(Uchida et al. 2018 EvoDevo 9:7)。もう一つの仮説として、後期胚や初期胚が環境適応への性の淘汰を通して多様化したのに比べ、器官形成期はちょうどその間の時期として多様化のための正の淘汰圧を受けなかったという説がある。しかしこれも、線虫を用いた正の淘汰が働かない条件下での実験進化研究では支持されなかった。残された可能性として、器官形成期がもつ性質そのものが、進化的な保存に影響しているとするシナリオである。例えば、器官形成期の表現型は揺らぎが小さく(いわば硬い表現型)、多様化に必要となる表現型のバリエーションを生み出せないというシナリオである。 本課題ではこの仮説も1つの検証課題であり、脊椎動物胚の揺らぎを全胚由来遺伝子発現プロファイルから測定し、それが進化的保存性と相関するかどうかを検証する。上述の表現を用いるなら、器官形成期の表現型は硬く、発生の初期や後期と比べてバリエーションが生み出されにくい発生段階であるために保存されてきたという説である。これを検証するため、まずメダカを用いて検証を開始する。すでに揺らぎ測定系の構築は進みつつあるので、あとは、小さな進化スケールでの保存性測定ができる系を立ち上げる予定である。 定するには、
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Research Products
(13 results)