2018 Fiscal Year Annual Research Report
ハイブリッド触媒系による多成分連結型連続反応の開発と全合成への展開
Project Area | Hybrid Catalysis for Enabling Molecular Synthesis on Demand |
Project/Area Number |
17H06452
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
井上 将行 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 教授 (70322998)
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Project Period (FY) |
2017-06-30 – 2022-03-31
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Keywords | ハイブリッド触媒 / 触媒・化学プロセス / 合成化学 / 全合成 / 天然物 |
Outline of Annual Research Achievements |
多くの酸素官能基や四置換炭素を有する官能基密集型天然物は、タンパク質を介した信号伝達の新たな制御試薬や革新的な医薬品を提供するための重要なリード構造になる潜在性を持っている。しかし、自然界からの単離は困難であることが多く、創薬応用のためには全合成が必要である。一方、有機合成化学的には、官能基密集型天然物の構造は、合成化学における新戦略および新反応を開発するための理想的なプラットフォームとなる。我々は、このような天然物の全合成のためのハイブリッド触媒を活用した収束的戦略の開発を目指している。収束的合成は、標的分子の構造を一工程ずつ逐次的に組み上げる直線的合成に比して、一挙に分子の複雑さを増すことができるため、より短い合成経路設計に有利である。平成30年度は、クラジエリンおよびタキソール骨格の新たな収束的合成戦略を完成させた。 タキソールは、6/8/6員環(ABC環)が特異に縮環したタキサン骨格上に多数の不斉点および酸素官能基を有する。我々は、A環部に対応するアシルテルリドおよびC環部に対応するエノンをラジカル付加反応で連結した。C8位への第四級炭素導入後、パラジウムを用いたケトンα位のアルケニル化反応により8員環B環部を構築し、タキソール骨格を効率的に得た。 クラジエリンは、エーテル環を含む6/5/9員環が縮環した骨格を有する。容易に入手可能な官能基密集型化合物である糖誘導体と、官能基許容性の高いラジカル反応を組み合わせることで複雑な化合物群の簡便な合成を可能にした。ケトグロン酸から誘導したアシルテルリド、ラジカル受容体であるエノン、求電子剤であるアルデヒドの3成分を立体選択的に連結した。その後、還元的エーテル化反応と閉環メタセシス反応を経てクラジエリン骨格の収束的合成を達成した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
タキソールに代表される官能基密集型天然物の高度に酸化された炭素骨格は、極めて合成困難である。特に、官能基化されたフラグメント同士を連結する信頼性の高い手法は限られているため、収束的合成戦略やハイブリッド触媒の適用は容易ではない。我々はこれまで、ラジカル反応を基軸とした収束的合成戦略を開発してきた。平成30年度は、①バトラコトキシン骨格、②タラチサミン骨格、③クラジエリン骨格および④タキソール骨格に関して、全合成に利用可能な強力な反応を探索した。 ①バトラコトキシン骨格のAB環とC環の分子間での連結に、パラジウム試薬とニッケル試薬の双方を用いるハイブリッド系の条件が適用可能なことを明らかにした。 ②タラチサミン骨格の7員環形成反応は、第四級炭素と第三級炭素の同時構築が必要なため極めて困難である。この挑戦的な反応を実現するために様々な光レドックス触媒を応用したところ、高収率での環化反応が特定の条件でのみ起こることを明らかにした。 ③クラジエリン骨格の構築では、三成分ラジカル反応の有効性を証明した。さらに、Grubbs第二世代触媒を用いた閉環メタセシス反応による10員環の構築では、閉環効率が基質の構造に大きく依存することを明らかにした。 ④タキソール骨格の構築では、二成分ラジカル反応の有効性を証明した。この検討の際、C環フラグメントの反応性を調査するため多様な構造を持つエノンを連結反応へ適用した。その結果、架橋構造を持つことが、ラジカル受容体としての反応性を向上させるために必須であることを明らかにした。 以上のように、極めて温和な条件下、立体障害が高いC-C結合を形成できる様々な反応を実現した。官能基密集型天然物の収束的全合成へのハイブリッド触媒系の活用のために、多角的に研究を推進しており、申請書記載の課題を順調に進展させている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに、官能基密集型天然物の全合成のためのラジカル反応を基盤とした様々な戦略の探究と最適化を達成してきた。開発した官能基許容性が高い収束的合成戦略は、複雑な分子構造を容易に合成可能な多官能基化されたフラグメントから1工程で構築できる。用いる反応の広い基質適用範囲、単純な試薬条件および温和な反応条件ゆえに、これらの強力な収束的合成戦略は、新しい逆合成解析を可能とし、官能基密集型天然物の迅速な全合成に寄与するはずである。一方、開発したラジカル連結反応は、当量以上の試薬を使用する必要がある。ラジカル発生部位およびラジカル発生法等のすべてを最適化することにより、ハイブリッド触媒を用いて高収率で連結体を得る。さらに、ハイブリッド触媒を用いる効率的反応によって現在のフラグメント合成に必要な工程数を削減する。これらの実現によって、官能基密集型天然物の全合成ルートを飛躍的に単純化・短縮化し、現在ある合成論理を刷新する。以下では、タキソールを例として推進方針を述べる。 光レドックス触媒を用いると、分子内・分子間ラジカル反応の双方で、立体障害の高いC-C結合が効率的に形成することを明らかにした。また、パラジウム触媒とニッケル触媒を用いるハイブリッド型分子間連結反応を実現した。これらの連結反応は、タキソールの全合成だけでなく、様々なテルペノイドに適用可能であり、応用性が高い。これらの触媒系の適用範囲のさらなる向上およびハイブリッド触媒の適用を目指す。ハイブリッド触媒の適用では、領域の班員の触媒化学分野における成果を活用し、緊密な共同研究も推進する。これにより、フラグメント合成・連結の大幅な効率化を実現する。確立した全合成ルートから、タキソールの全合成を実現する。さらに共通中間体から、様々な天然・人工類縁体の全合成の達成を目指す。
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Research Products
(48 results)